研究課題/領域番号 |
19K23751
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
加藤 大貴 神戸大学, 理学研究科, 助手 (30846994)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ゼニゴケ / 発生 / シグナル伝達 / 進化 |
研究実績の概要 |
本研究ではゼニゴケ杯状体形成を制御するWIP転写因子に着目し、A) 発現パターンの解析、B) 機能改変株の表現型解析、C) 下流遺伝子の同定と機能解析を計画している。それぞれの項目について本年度は下記の成果を得た。 A) WIP遺伝子のプロモーター領域にGUSレポーター遺伝子を融合したコンストラクト(WIPpro:GUS)に加えて、WIP遺伝子のプロモーター領域からコード領域全長に渡る配列を蛍光タンパク質Citirneに融合したコンストラクト(WIP-Citrine)を作成した。 B) すでに作出済みであったwip機能欠損変異体の表現型解析を行った。野生型と比べてwip変異体は葉状体の側方が上に湾曲する、仮根が少ない、杯状体が密集するという表現型を示した。それぞれについてより定量的な解析を行ったところ、wip変異体の無性芽に形成される仮根の数に変化はなく、それぞれの長さが短くなっていることで少なく見えていたことが明らかになった。また杯状体の形成については、最初の杯状体が形成されるまでの期間に野生型との有意な差はなく、2つ目以降の杯状体形成において有意に密度が高くなるという、WIPが杯状体の側方抑制をしているのではないかという仮説に一致する結果を得た。また薬剤依存的にWIPの過剰発現を誘導できる形質転換体を作成した。無性芽においてWIPを過剰発現すると、ほとんど成長せずに枯死してしまうという強い表現型を示した。 C) 下流因子の同定に向けてwip変異体と野生型を用いたRNAシーケンス解析を行った。1週間目と2週間目の葉状体を用いて解析を行ったところ、それぞれ2045、2840の発現変動遺伝子を同定し、そのうち971遺伝子は共通して変動していた。遺伝子オントロジー解析を行ったところ、細胞壁や酸化還元に関する項目が顕著に濃縮されていることが明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
3つの研究計画それぞれの進捗状況について以下に記述する。A) 発現パターンの解析のためのコンストラクト作成に想定より多くの時間を要したが、解析に必要な時間は次年度に十分残されていると考えている。B) 変異体と過剰発現株の両方について、植物体の作成と巨視的な表現型解析を定量的に行うことができた。C) 下流因子の同定に向けて変異体を用いたRNAシーケンス解析を完了した。過剰発現株についても形質転換体の作成は完了しており、いつでもRNA-シーケンス解析を行える準備が整っている。以上のことから進捗は概ね順調であると判断した。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画に大きな変更は必要ないと判断し、次年度は以下の計画で研究を行う。 A) WIP遺伝子がいつ、どこで働いているかを明らかにするため、本年度に作成したWIPpro:GUS、WIP-Citrineコンストラクトを、それぞれゼニゴケ野生型またはwip変異体に導入し、GUSまたはCitrineレポーターの発現パターンを詳細に観察する。WIP-Citrineについては変異体の表現型相補を指標に融合タンパク質が機能的かどうかを確かめる。観察に際しては特に杯状体周辺について細胞レベルで詳細に行う。 B) ゼニゴケ葉状体の背側には杯状体に加えて気室という器官が形成される。両者は発生初期の細胞分裂の向きが異なることが報告されている。そこでwip変異体の背側の細胞分裂パターンについて詳細に観察を行う。過剰発現株については、薬剤依存的に誘導できることを利用し、誘導のタイミングや強さを変えることで表現型を詳細に観察する。 C) 薬剤で誘導可能な過剰発現株を用いて、WIPを発現してから短時間で誘導される遺伝子をRNAシーケンス解析により同定する。本年度に行った変異体を用いた解析の結果と比較することで、WIP下流遺伝子候補を絞り込む。下流遺伝子候補から細胞分裂面制御に関わりそうな因子についてCIRSPR/Cas9法により破壊し、表現型を観察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当該予算は基金であり、2年間かけて使用するものであると認識している。本年度の使用は当初の計画よりも少ない額となった。その理由としては、消耗品やソフトウェアライセンスに関して研究室で共同購入することができたこと、年度末の学会や出張が新型コロナウイルス感染拡大の影響で中止になったことなどが挙げられる。この報告書を書いている時点において新型コロナウイルスの感染は収束しつつあり、次年度においては当初の計画に沿って、形質転換体の作成と観察、次世代シーケンサーを用いた解析、研究報告のための海外出張や論文の校閲などに使用することを計画している。
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