研究課題/領域番号 |
19K23752
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研究機関 | 神戸大学 |
研究代表者 |
樋口 真之輔 神戸大学, 理学研究科, 理学研究科研究員 (20847131)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 有毛細胞 / 平衡感覚 / 膜迷路 / 感覚毛 / 進化 |
研究実績の概要 |
脊椎動物は一般に、体の回転や重力の方向といった平衡感覚を内耳で受容する。内耳とは、体外環境から隔離された膜迷路と呼ばれる腔に有毛細胞が配置された構造をしている。一方、脊椎動物以外の後生動物は膜迷路をもたないものの、有毛細胞は多くの後生動物にも見出される。すると、動物の進化において、「検出器」である有毛細胞がまず獲得され、これを「容器」である膜迷路に配置して内耳が獲得されたと推定できる。興味深いことに、有毛細胞の感覚毛に類似した構造は、後生動物に最も近縁な単細胞生物である襟鞭毛虫にも見出される。そこで、本研究は後生動物を広く対象として原生生物をも視野に入れ、有毛細胞の起源とその進化的変遷の推定を目指している。本年度は、平衡胞の発生過程が未記載である無腸動物ナイカイムチョウウズムシ P. naikaiensis の平衡胞の記載方法の確立を目指した。瀬戸内地域で採集した P. naikaiensis を蛍光染色後に透明化して平衡胞周辺を共焦点レーザー顕微鏡により観察することで、平衡胞の組織構築を立体的に把握できた。これで、次年度の P. naikaiensis の産卵期に瀬戸内地域において採集を行って胚を得、平衡胞の形態形成の詳細を記載する準備が整った。本研究の成果から、後生動物の進化の歴史において、感覚器の発生プログラムにいかなる変更が生じた結果、有毛細胞を含む平衡器や聴覚器が獲得され、その形態を変化させてきたのかを理解できると期待している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初予定していた実験、観察を行うことができたため。無腸動物ナイカイムチョウウズムシ P. naikaiensis の平衡胞の三次元観察に適した条件を設定でき、次年度にはこの技術を胚にも適用して平衡胞の形態形成を記載する準備を整えることができた。また、平衡胞の発生プログラムを解析するための遺伝子の単離を進め、次年度の産卵期にサンプリングを行って解析を予定通り行える見込みである。
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今後の研究の推進方策 |
P. naikaiensis の採集を7月中旬までに行い、解析に必要な個体数を確保する。続いて、平衡胞形成を形態および遺伝子発現の側面からおける共通点および相違点を抽出する。さらに、分子生物学的手法を用いて、遺伝子レベルで平衡胞の発生プログラムの一端を明らかにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度はP. naikaiensis の平衡胞の三次元観察に適した条件検討を行ったが、想定よりも滞りなく観察条件を設定でき、結果として消耗品費が抑制されたため。一方で、次年度には胚の透明化や分子生物学的手法による解析を行うため、全体としては当初に計画した予算規模で研究を行う。
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