研究課題/領域番号 |
19K23753
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研究機関 | 奈良先端科学技術大学院大学 |
研究代表者 |
高原 未友希 (中田未友希) 奈良先端科学技術大学院大学, 先端科学技術研究科, 助教 (60707579)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 植物器官 / 力学特性 / 網羅的な探索 |
研究実績の概要 |
植物器官の力学的特性を調節する分子メカニズム解明の糸口を掴むため、力学的特性の調節に関わる遺伝子群の網羅的な探索を行った。植物器官の力学的特性のうち、花茎の屈曲に着目し、遺伝的多型を含むシロイヌナズナ集団を材料に力学的特性の網羅的な定量評価を実施した。 シロイヌナズナ自然系統コレクション1001Genomesの167系統について、花茎の力学特性を測定し、曲げ剛性とヤング率の両方について、系統間で多型があることを確認した。うち一つの系統について、標準系統であるCol-0との間にヤング率に違いが見られたことから、組織学的解析による比較を行なった。その結果、当該系統とCol-0系統との間に木質組織の配置の違いを見出した。また、Col-0背景の過剰発現系統を用いた解析を行い、ヤング率が変化する系統を見出した。別のアプローチとして、二次細胞壁形成に影響する遺伝子の変異体の力学特性を解析し、木質組織の配置が変化するにも関わらず、曲げ剛性、ヤング率に変化が見られないことを明らかにした。その原因を特定するため、同系統の花茎横断切片画像や、マイクロX線CTによる3D撮影画像を用いた木質組織の定量解析を行なった。その結果、同系統では力学特性に正の影響を与える変化と負の影響を与える変化の両方が生じていること、そして、その複合的な結果として力学特性が野生型と変わらないことが示唆された。 本研究では、力学特性と木質組織の配置との間の関連性に関わる系統を特定することに成功した。今後はこれらの系統や得られた知見を端緒として、花茎の力学特性を決定づける木質組織の配置を制御する分子メカニズムについて調べる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度に確立した花茎の屈曲に関する力学的特性の評価方法を用いて、シロイヌナズナ自然系統と過剰発現系統の網羅的解析を進めており、一部系統について力学特性や組織配置に多型が生じることを見出した。一方、予想外の結果として、二次細胞壁の分布の変化が見られる変異体において力学特性が変化していないことがわかった。組織学的解析を進めた結果、同変異体においては力学特性に正の影響を与える変化と負の影響を与える変化の両方が生じていることがわかった。このように当初の狙いであった、力学特性が変化する系統を複数得ることができていること、力学特性に影響する要素を特定したこと、これら要素に関わる遺伝子を見出したこと、といった点から、概ね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、木質組織の配置が力学特性の決定に重要であることが強く示唆された。木質組織の配置を制御する遺伝子はほとんど特定されておらず、分子メカニズムは不明な点が多い。また、力学特性が変化しない場合にも、複数の要素のバランスによって変化していない場合もあることがわかった。 今後は、本研究で確立した力学特性の解析と対となる方法として、組織切片による二次細胞壁分布を指標とした網羅的探索方法についても検討する。また、シロイヌナズナ自然系統と過剰発現系統について、未解析の系統についても解析も引き続き進めるとともに、屈曲に対する力学特性に変化が見られた系統について、引張・圧縮などに対する力学特性にも変化が見られるかについても明らかにしていく。
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次年度使用額が生じた理由 |
産前・産後休暇により研究を中断した期間があった。また、新型コロナウィルスの流行により、共同研究による出張や国内外の学会への出席を控えた。 残りの研究計画を遂行するための試薬・物品の購入や、解析の外注、国内外の学会への旅費・参加費用および研究成果を発表する論文の校閲や投稿の費用として使用を計画している。
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