研究課題/領域番号 |
19K23754
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
小川 紗也香 大阪大学, 免疫学フロンティア研究センター, 特任研究員(常勤) (20848452)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ストレス応答 / 細胞損傷応答 / 炎症性サイトカイン / SASP |
研究実績の概要 |
本研究では細胞ストレスを負荷し、OASISなどのストレス応答因子による応答機構とその機能の解析を目的としている。本年度はマウス大脳由来初代培養細胞アストロサイトに抗がん剤ドキソルビシンを添加することで細胞ストレスの一種であるDNAダメージを与え、ダメージ応答因子の発現をPCR法により遺伝子レベルで解析、ウエスタンブロット法によりタンパク質レベルで解析した。この結果DNAダメージを与え12時間後にダメージ応答タンパク質の発現が増加した。また、ダメージ応答タンパク質の増加に伴う炎症性サイトカインを含む老化関連遺伝子の発現量変化をPCR法により解析した。その結果、DNAダメージを受けた際に発現レベルが上昇する遺伝子を4種類見出した。ダメージ応答タンパク質であるOASISをRNA干渉を用いて発現抑制するとDNAダメージを負荷した場合でもOASISの発現は増加せず、老化関連物質(SASP)の発現増加も見られなかった。さらに、細胞老化の検出が可能でなSA-βgal染色により老化を解析すると、この細胞では細胞老化が抑制されていた。さらに、ダメージ応答タンパク質OSAIAを欠損したノックアウトマウスの初代培養アストロサイトにDNAダメージを負荷した際もSASPの発現が低下している傾向が見られた。 これまでの報告より、老化とがん化には密接な関わりがあると考えられているが、ダメージ応答タンパク質OASISの発現を抑制すると老化関連因子の発現量低下とともにがん抑制遺伝子p21の発現量も低下していることが明らかとなった。また、この時の細胞増殖が促進した。さらに、老化細胞特有の細胞質が扁平な形態の細胞がコントロール条件と比較してノックダウン細胞では減少していた。この結果より、ダメージ応答タンパク質は細胞老化とがん化において重要な機能を有することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度予定していたDNAダメージ応答因子の一つであるOASISをRNA干渉法により発現抑制したアストロサイトとOASISノックアウトマウスの大脳由来のアストロサイトに抗がん剤であるドキソルビシンを添加することでDNAダメージを負荷し、ダメージ応答因子の機能解析を行った。その結果、まずドキソルビシン添加後12時間後にはダメージ応答因子OASISの発現増強が生じていることが明らかとなった。また、ダメージ因子OASISを欠損した細胞ではDNAダメージに応答して誘導される、老化関連因子(SASP)およびがん抑制遺伝子(p21)の発現レベルが顕著に低下していた。したがって、ダメージ応答因子が老化関連因子およびがん抑制遺伝子の発現を誘導していることを見出した点から、おおむね順調な進展が得られていると考える。
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今後の研究の推進方策 |
現在までの結果より、DNA損傷といった細胞ダメージに応答して産生されるサイトカインに変化があり、この産生されたサイトカインが細胞老化やがんといった疾患に大きく関与していることが示唆された。そのため、今後は多様な細胞障害を誘導する刺激を行い、その際に生じるストレスに応答して産生されるサイトカインなどに着目し、どのようなストレス応答機構が働き、生体内でどのような機能に関与するか明らかとする。マウスより単離した初代細胞を用いて細胞膜外からの刺激により引き起こる細胞ストレスに応答し、細胞内の転写因子の活性化を伴うサイトカインなどのタンパク質産生の変化を生化学的・細胞生物学的に解析する予定である。 (1)生体内に侵入してきた細菌やウイルスによってもSASPの発現は上昇することが知られている。生体外からの感染によるストレスを模倣した薬剤を初代培養細胞に添加し、培養することで初代培養細胞にストレスを負荷し、ストレス応答時の細胞増殖やサイトカインとケモカインなどの分泌因子量の変化をフローサイトメーターやELISA法を用いて解析する。また、定量的PCR法を用いて遺伝子レベルでの転写制御機構解析も行う。それにより、細胞が損傷を受けることで誘導される細胞内のストレスに対する応答機構の制御メカニズムから個体レベルでの影響に至るまでの一連のストレス応答機構について解明を試みる。 (2)初代培養細胞内に薬剤添加により誘導した細胞損傷に伴うストレスを負荷し、ストレス時に発現量の変化する分子の応答を初代培養細胞の活性化抑制剤や活性化剤を用いて解析することで、そのストレス応答経路の重要性やシグナル伝達機構を解析する。また、解析を行う細胞の種類を変えて同様のストレスを負荷し、その時の応答機構を細胞増殖、サイトカイン産生、遺伝子発現変化などを解析することで、細胞特異的なストレス応答機構であるかについて明らかにする。
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