研究実績の概要 |
生物はどのようにして体軸を獲得するのだろうか?ショウジョウバエを含む多くの生物は、bicoidに代表されるような母性効果遺伝子のmRNAが非対称に分布する ことにより、すでに卵子の段階で分子レベルの非対称情報を獲得している。そして、それら分子レベルの非対称情報が後の体軸情報を提供する。それに対して、 ヒトやマウスといった哺乳類は、依然不明なままである。 研究代表者はこれまで一貫して「丸い哺乳類の受精卵がいつどのようにして非対称な形態を獲得するのだろうか?」という命題の解明に対し、マウス胚の3つの体軸の内もっとも早期に形成される前後軸に着目し、その初期形成過程をさかのぼって解析することで非対称な形態の起源にアプローチしてきた(Takaoka et al., Dev. Cell 2006, NCB 2011, Dev. 2012, Nat. commun. 2017)。その結果、マウス胚の前後方向は受精後4日の着床期付近の胚DVEと呼ばれる細胞群によって決定しており、DVEはNodalシグナルによって誘導されるLefty1によって規定されることが明らかになった。さらに、前後軸形成機構をさかのぼって解析するために、Nodalシグナルのリガンドである分泌因子Nodalの発現を母体組織で調べたところ、卵巣の卵胞と子宮腺上皮組織で着床期特異的に発現している。さらに、生後6ヶ月以上のLefty1-/-バックグラウンド♀由来の胚では、頭部誘導するAVEの細胞が後方にも形成し、前後軸方向のパターニングが破綻していた。これらの予備実験結果から、前後軸方向を決定する細胞群DVEは、卵巣と子宮、胚のNodalシグナルが時空間的ネットワークとして働くことで生み出されており、母体の加齢が頭部決定細胞群AVEのパターニングを破綻させている仮説モデルを立てた。
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