研究実績の概要 |
生物進化における個体の大型化には、被捕食を避けるという大きな利点がある。微生物は個体の細胞数を増やすことで、大型化を成し遂げた。ところが遊泳性の微細藻類のように、光合成に適した光環境に移動しながら生存する微生物は、その大型化の過程でも光環境応答行動を維持しなければならない。本研究は、多細胞化・大型化による体制変化と光環境応答行動の維持が、どのように両立されてきたのかの解明を目的とし、多細胞化進化のモデル生物群である緑藻ボルボックス目を用いた。このグループの単細胞種クラミドモナスは、2本の鞭毛を「繊毛型」波形で平泳ぎのように打って前進し、光刺激を受けると一時的に「鞭毛型」へと波形変換して後退する。一方,細胞数約5,000で球状の体制をもつボルボックスの一種は,各細胞から2本ずつ生える鞭毛を繊毛型波形で個体後方に打って前進し,光刺激を受けると球体は急に減速する。このとき、前方の細胞は鞭毛の打つ方向をほぼ逆転させ,後方の細胞は後端への運動を続けることにより、球全体の推進力が相殺されている。本研究では、このように光刺激後の鞭毛応答に大きく隔たりのある上記2種の中間的な細胞数を持つ種の反応を調査した。ボルボックス目の系統全体にわたる11種について調べた結果、上記の2つの応答様式に加えて「鞭毛運動の停止」と「反応なし」様式があることを見出した。これらの結果を系統的関係と合わせ、より大きな個体の動きを制御するために適した新しいパターンが獲得されたことと、その獲得は複数回起きたことが推測された。
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