本研究の目的は精細胞へ細胞間移行するRNAを“精細胞移行RNA”と定義して、移行するRNAを同定して、その機能を明らかにすることであった。これまで精細胞移行RNAの存在はほとんど報告されてこなかった。そこで研究代表者は「人為的に精細胞へのRNA移行を阻害したミュータント花粉」を作出して、それを利用して様々な解析を行い、精細胞移行RNAの機能に迫った。 この目的のため、初年度では精細胞移行RNA同定のため、野生型花粉と変異体花粉それぞれの精細胞の単離を行い、それぞれに含まれるRNA種をトランスクリプトーム解析で比較した。その結果、野生型精細胞に比べ、変異体花粉中の精細胞では数百種類のRNAが有意に減少していることが分かった。これらが本研究で明らかとなった、精細胞移行RNA候補である。 更に初年度ではこの花粉研究に関連して、花粉で遺伝子発現制御に関与するタンパク質NOT1の機能を論文としてまとめ、査読付き論文として国際誌に発表した。 最終年度となる2年目は、精細胞へのRNA移行を阻害したミュータント花粉を用いた形態学的解析を進めた。この精細胞RNA移行が阻害されたミュータント花粉は、精細胞自身の遺伝子発現には大きな異常は見られない一方で、精細胞と接する栄養細胞の生体膜構造が変化することで、精細胞自身の輸送に異常をきたすことが明らかとなった。この表現型は精細胞移行RNAなど、細胞間相互作用が異常となった結果であることが予想され、本研究により“精細胞移行RNA”の生理学的機能の一端が示唆された。 これらの研究に関連して明らかとなった花粉管の機能に関する成果を論文としてまとめ、査読付き論文として国際誌に発表した。
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