研究課題/領域番号 |
19K23763
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
水内 良 東京大学, 大学院総合文化研究科, 特任助教 (60845535)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 生命の起源 / 生命の初期進化 / 複雑化 / RNA / 実験進化 / 翻訳システム / 再構成 / 人工細胞 |
研究実績の概要 |
本研究では、原始複製体を模擬した異なる遺伝情報をもつ2種類のRNAを人工細胞様区画で長期的に複製させることで、それらがどのような原始環境条件で進化的に融合し、一本の長いゲノム (融合RNA) になるかを検証する。これにより、原始地球に生まれた単純な自己複製体の複雑化過程について一つの可能なシナリオを提示する。本年度はまず実験条件を検討するための、複製可能な融合RNAの構築を行った。特にこれまでに所持していた融合RNAは十分に複製できず長期複製実験には適さないとわかったため、人為進化実験によって新たに複製可能な融合RNAを取得した。また本実験の長期複製実験ではRNAがコードするタンパク質の翻訳がそのRNA複製に必須となる必要があるが、そのタンパク質が本研究で用いている無細胞翻訳系へコンタミネーションしていることが明らかになった。そこで無細胞翻訳系の新たな精製方法を確立した。
次に、実験条件の検討を簡略化するため、理論モデルを構築し、長期複製実験を模擬したシミュレーションを用いて実験的に操作可能なパラメータ空間を探索した。その結果、これまでに知られていなかった融合RNAの進化を促進し得る様々な条件 (希釈率、環境収容力、区画の融合分裂頻度、変異によって生じる寄生性RNAの複製効率など) が明らかになった。それらの条件は全て原始地球環境で起こりうるものである。そのため、以上の結果は今後の長期複製実験の指針となるとともに、原始複製体の複雑化シナリオについて新たな知見を与えるものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コンタミネーションというトラブルがあったものの、長期複製可能な2種類のRNAおよび融合RNAが得られ、また融合RNAが長期複製実験で選択され得る条件が理論研究で明らかになったため。
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今後の研究の推進方策 |
まず理論的に決定した条件で2種類のRNAと融合RNAを混ぜて長期複製実験を行い、融合RNAが実際に選択されることを確かめる。その後、2種類のRNAだけを用いて長期複製実験を行い、自発的に融合RNAが生まれ、選択されるかどうかを調べる。そして得られた融合RNAの複製活性やRNA構造を詳細に解析することで、どのような進化が起きたかの知見を得る。
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次年度使用額が生じた理由 |
コンタミネーションにより長期進化実験を開始できず、その分理論研究を進めた。そのため、消耗品費が予定よりも少なくなった。
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