研究課題/領域番号 |
19K23766
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
村上 匠 国立遺伝学研究所, 情報研究系, 特任研究員 (00806432)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 氷河 / 細菌群集 / メタゲノム / クリオコナイト / シアノバクテリア |
研究実績の概要 |
本課題では、クリオコナイト粒形成において中心的役割を果たすシアノバクテリアの生態にメタゲノム情報から迫ることを目指している。その為に両極域、南北アメリカ大陸、アジア高山域に存在する計11の氷河から採集したクリオコナイト試料由来のショットガンメタゲノム配列を解析した。 まず、各試料の細菌系統組成をメタゲノムデータ中の16S rRNA遺伝子を基に推定した。その結果、地域間、特に極域とアジアとではクリオコナイト内の細菌群集構造に差異があることが判明した。中でもシアノバクテリアの差異は顕著で、極域では単一の種がクリオコナイト内で優占するのに対し、アジア氷河のクリオコナイトでは複数系統のシアノバクテリアが共存する傾向にあることがわかった。 次に、メタゲノム配列断片をアセンブルして得られたコンティグをさらにクラスタリングすることで、各試料中の主要なシアノバクテリア系統のドラフトゲノム(metagenome-assembled genome, MAG)を作成した。そして得られたメタゲノムコンティグ全体と、シアノバクテリアのMAGに分類されたコンティグの双方について、コードされている遺伝子の機能推定を進めた。その結果、例えば光受容体遺伝子など、シアノバクテリアの生存戦略において重要な役割を担うと考えられる遺伝子のレパートリーが系統ごとに異なり、それが極域とアジアの地域間の遺伝子分布にも現れていることが判明した。こうした成果は、世界各地の雪氷環境で報告されるクリオコナイトにおいて、地域ごとに異なるシアノバクテリアの生存戦略が存在すること示唆していると考えられる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初計画されていた通りメタゲノム配列データの解析を進め、各地域の氷河シアノバクテリアの系統解析とMAGの構築、およびコードされている遺伝子の機能推定を完了した。さらにシアノバクテリア系統間、および採集地域間での遺伝子レパートリーの比較を通じて、氷河シアノバクテリアの生態の地域的な多様性に迫る知見が蓄積されつつある。
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今後の研究の推進方策 |
構築されたシアノバクテリアのMAG、メタゲノムコンティグから判明した細菌群集総体としての遺伝子機能、そして現地調査の際に計測された各種環境パラメータ情報を相互に突き合わせることで、氷河シアノバクテリアを中心としたクリオコナイト細菌群集の地域的多様性について引き続き検証する。また、アジア域のクリオコナイトについては従来研究事例が乏しく情報が限られていたが、今回の解析で系統的にも機能遺伝子的にも極域と異なるシアノバクテリアが複数種生息していることが判明した。アジア地域のクリオコナイトについて更なる情報、特にクリオコナイト粒の形成過程に沿った群集構造と遺伝子機能の変遷を調査するために追加のシークエンシングと情報解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2019年度はin silicoでの解析を中心に行い、追加シークエンシングが必要なサンプルの選定に努めたため、シークエンシングに関する支出は当初計画していたよりも少なかった。本年度中にサンプルの選定が一通り終了したので、次年度は精力的にショットガンメタゲノムなどのシークエンシングを行う予定である。
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