「寄生者が宿主の行動を操作する」というのは、それ自体が閉じた現象であるかのように考えられてきた。しかし実際は、我々が思うよりももっと複雑な現象である。寄生者が中間宿主の行動を操作することによって、以下のような変化が生態系内で生じると考えられる。まず、中間宿主の捕食者は中間宿主(被食者)への選好性をより強く発達させると考えられる。たとえば表現型可塑性や学習によってこうした変化が生じると考えられる。また、中間宿主の捕食者は自然選択によって中間宿主への選好性を高めると考えられる。さらには、捕食者の個体数が増加し、中間宿主への捕食率は全体として増加すると考えられる。こうした、複雑なフィードバック効果を考慮した数理モデルを構築し、進化・生態学的な帰結を予測することは、宿主操作の進化を理解するうえで非常に意義深いことである。本研究ではこの3つの可能性を考慮した数理モデルの解析を実施した。その結果、これら3つのフィードバックメカニズムは、宿主操作の進化に対して、定性的に異なる効果をもたらすことが明らかとなった。また、3つのフィードバックメカニズムは異なるタイムスケールを持っていることから、生態系における迅速なプロセスのモデリングとタイムスケール分離法が、強力なツールとなることを示した。本研究は、空間・時間スケールの両面で、実際のフィールドでは検証することが困難である仮説を定式化するうえでも重要な役割を担うであろうと考えられる。
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