本研究の目的は、精神疾患の発症リスクと想定されている“ストレス脆弱性”形成のメカニズムを分子・細胞・回路レベルの多階層アプローチにより解明することである。遺伝・環境相互作用に起因するうつモデルマウスにおいて、ヒストンリジン脱メチル化酵素(KDM5C)がストレス脆弱性形成に重要な役割を果たしていることを見出している。さらに、ストレス脆弱性マウスにおけるKDM5Cの発現異常の原因として、エピゲノム異常の存在を示唆する結果が得られている。そこで本研究では、ストレス脆弱性の個体差構築に関わるエピジェネティクス制御分子のKDM5Cに着目し、KDM5Cによるストレス脆弱性の個体差形成のメカニズム解明をめざす。特定の神経回路選択的に遺伝子操作・神経活動操作が可能な分子技術を用いて、分子レベルと神経回路レベルの多階層からのアプローチによって、ストレス適応機構の理解をめざす。これまでに、ストレス脆弱性の個体差構築に関わるエピジェネティクス制御分子KDM5Cの標的遺伝子を同定した。RNA-seqとChIP-seq解析によって得られたデータをもとに、KDM5Cの候補標的遺伝子を抽出し、候補遺伝子群について、リアルタイムPCR法を用いてvalidationを確認した。上記実験で得られた候補遺伝子とストレス脆弱性との関連を検討した。アデノ随伴ウイルスを用いて候補遺伝子を過剰発現した場合のストレス対処行動を解析した。さらに、ストレス脆弱性の個体差・性差構築に関わる神経ネットワークの解明を試みた。具体的には、ストレス脆弱性形成に関わる候補神経回路を薬理遺伝学的手法を用いて選択的に活性化・抑制させたマウスを作製し、ストレス対処行動を評価した。
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