研究課題
本研究は、意識障害患者の頭皮上脳波における、低周波、高周波律動の発作原性、脳機能予後を予測する電気生理学的バイオマーカーとしての役割の確立と生成機序の解明を目指す研究である。もともと研究代表者は低周波律動のうちshort infraslow activity(SISA)と命名した活動が低酸素脳症のburst-suppressionで認めることを報告していた(Togo et al. 2018)。しかし、SISAが他の病因で出現するか、また急性症候性発作、神経学的予後との関連が不明であったため、今年度は他のetiologyにおいてSISAを認めるかを検討していた。その結果麻酔薬や代謝性脳症が原因によるburst-suppressionにおいてSISAは低振幅か認めないことが多く、急性症候性発作、予後不良の症例ではSISAの振幅が有意に高いことを示しており(Togo et al. IEC 2019, JES 2019)、現在論文作成中である。Burst-suppressionは重篤な脳障害でも代謝性脳症などの比較的軽度の脳障害でも現れることはあり、急性症候性発作の出現率や予後が両者で大きく異なる。古典的な脳波における周波数帯域では両者の発作の出現や予後について予測することが難しかったが、SISAのようなこれまでの周波数帯域では確認できなかった低周波活動を使用することで発作や予後の予測の可能性を示していると考えている。SISAが神経救急における神経学的予後や発作出現に関する新たな電気生理学的バイオマーカーとなりうる可能性を示すとともに、意識障害において低周波の脳活動がどのように関与しているかについても重要な示唆を与えると考える。
2: おおむね順調に進展している
2019年度は研究実施計画では、どのような病因、脳波所見に低周波、高周波律動が合併しているか、また低周波、高周波律動を認めた群と認めなかった群で神経学的転帰が良好、不良の人数や、急性症候性発作を認めた人数、認めなかった人数を算出し、χ二乗検定を用い比較するということを目標としていた。どのような病因や脳波で低周波律動が合併し、また神経学的予後や急性症候性発作と関連するかを明らかにするという目標に関しては上記研究実績の概要に示したように、SISAが低酸素脳症のburst-suppressionで認められ、代謝性脳症や薬剤(麻酔薬による鎮静)など他のetiologyのburst-suppressionと異なり高振幅であったこと、また高振幅なSISAが低振幅のSISAと比較して神経学的予後不良や急性症候性発作の出現と関連していたことを上記の手法で示したことで、目標は予定どおり達成している。現在他の病因によるburst-suppression以外の脳波も検討し始めているが、いくつかの病因ではSISAと類似した波形のinfraslow activityを認めることも確認しており、そちらの目標についても予定通り達成できている。
2020年度は研究実施計画では、集中治療室における長時間脳波モニタリングにより低周波、高周波律動の経時的変化を記録し、発症後どの程度の時間で律動が出現、消失するかを検討する。また、これまでの動物実験や単離神経細胞を用いた電気生理学的研究で得られているこれらの律動や経時的変化に関する知見と比較し発症機序を推定するとしていた。これらの計画に即して、計画をすすめるとともに、2019年度の予定であった、他の病因における低周波活動の合併や神経学的予後、発作との関連についても計画を進めていく。上記進捗状況にも記載しているが、現在他の病因によるburst-suppression以外の脳波も検討し始めており、いくつかの病因ではSISAと類似した波形のinfraslow activityを認めることも確認している。今後は学会発表、論文化を進めていく。また症例数の確保のため、現在2病院で行なっていた症例の蓄積を、他施設に増やせるように現在調整中である。多施設での検討が可能となれば、より質の高いデータが得られると同時に、神経救急脳波において低周波、高周波律動を確認する方法を普及させるためにも有用であり、本研究の目的とする神経救急脳波における新たな電気生理的バイオマーカーの確立に近づけるものと考えられる。
PCモニターなどの必要物品を購入するのに余剰している金額が不足していたため、次年度の予算と合わせて購入予定とした。
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臨床神経学
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Epilepsia
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