研究課題
痛みは傷害から身を守るという生体の防御機構として重要である。しかし、その痛みが慢性的に続く場合、患者のQOLを著しく低下させることから、大きな社会問題となっている。原因不明の痛みに悩まされている慢性疼痛患者に対し、急性痛と同様の治療薬である非ステロイド性消炎鎮痛薬(NSAIDs)やプレガバリン、さらに抗うつ薬等が使用されているが、現時点で効果的で副作用の少ない難治性慢性疼痛薬は存在しない。また、米国ではオピオイドが慢性疼痛の治療薬として積極的に使用されているが、患者のオピオイド乱用による依存性や過剰摂取によって年間薬5万人も死亡していることから大きな社会問題となっている。本研究の目的は慢性疼痛のメカニズムを明らかにし、効果的で副作用の少ない治療薬に結びつけることである。痛み物質であるホルマリンをマウスの足底に投与することにより、痛みが誘引され、脊髄後角の神経細胞の活性化が認められる。NSAIDsやオピオイド等により鎮痛効果が認められる時、脊髄後角の神経細胞の活性化が抑制される。我々は、セロトニン3受容体アゴニストであるSR 57227Aが非常に強い鎮痛効果を発揮することを明らかにしたが、SR 57227Aを投与しても脊髄後角の神経細胞の活性化マーカーであるc-Fosの発現には影響を与えなかった。つまり、SR 57227Aの強い鎮痛効果のターゲット部位は、脊髄下位ではなく脳である可能性が考えられた。
2: おおむね順調に進展している
SR 57227Aの強い鎮痛効果の作用部位が脊髄下位ではないことを明らかにすることができた。
侵害情報の情報は、痛みの部位、強さ、種類を分析するための知覚情報が大脳皮質に入力し、同時に、耐えられない苦痛として回避行動を促す情動情報が大脳辺縁系に入力する。現在までの我々の結果により、SR 57227Aは情動情報に由来する痛みに対して鎮痛効果があることが明らかとなった。この情動情報に由来する痛みの強化が慢性疼痛の一因として考えられることから、情動情報に由来する痛みの発生に関与する部位を特定し、SR 57227Aの鎮痛効果についてlickingやbitingのような行動試験からだけでなく、視覚的に明らかにする予定である。
5-HT3-GFPトランスジェニックマウスが予想以上に生まれたため、今年度は当初予定していた計画以上に5-HT3-GFPマウスを使用して、前倒しで研究を行った。そのため、今年度使用を予定していた野生型マウスは次年度購入予定である。
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