強い痛み刺激を繰り返し与えると、パブロフの条件付のようにconditioned nociceptive responseが成立する。条件付が成立したマウスは、「痛みを与えられた環境」にさらすだけで強い痛み刺激を与えなくてもlickingやbiting等の「痛み様行動」を示す。近年、conditioned nociceptive painは難治性の慢性疼痛の一因ではないかと考えられ始めているが、そのメカニズムについては全くわかっていない。我々は、conditioned nociceptive painと心的外傷性ストレス障害(PTSD)の発生メカニズムが類似していることに着目した。いずれも条件づけの消去学習が成立すれば症状が回復することが期待される。そこで恐怖記憶の消去学習に必須でありPTSDの治療薬としての可能性が考えられる化合物に注目した。申請者は近年、その化合物がconditioned nociceptive responseに対し、非常に強い鎮痛効果を示すことを明らかにした。さらに慢性疼痛モデルラットのmechanical thresholdの回復も認められた。そこで我々は、conditioned nociceptive responseに関与する部位およびメカニズムについて検討した。その結果、conditioned nociceptive responseに深く関与する領域は脊髄上位であることが明らかとなり、さらに関連脳部位が明らかとなった。本研究は、難治性の慢性疼痛のメカニズムの解明、および効果的な治療薬の開発に繋がる可能性が大いにある。
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