研究課題/領域番号 |
19K23786
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研究機関 | 川崎医科大学 |
研究代表者 |
林 周一 川崎医科大学, 医学部, 准教授 (50568938)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 大脳皮質 / 視床 / 発生 |
研究実績の概要 |
大脳皮質から皮質下への主要な出力を担う投射軸索は、視床で特殊な形態のシナプス終末をつくることが知られている。本研究では、発生期の脳において、その特殊なシナプス終末形態の形成を制御する機構を明らかにすることを目的として実験を行った。本年度は、制御候補因子の働きを検証するための方法として、子宮内エレクトロポレーションでRNAiによる遺伝子発現抑制を行う実験系を確立することを目指した。まず、申請者が以前に所属した研究機関で用いた手術の方法を現研究機関に導入することを試みた。その方法を用いて胎生13.5日目に蛍光タンパク質遺伝子を導入したところ、生後3週のマウスで導入された蛍光タンパク質が発現していることを確認できた。 また同様に子宮内エレクトロポレーションで内向き整流性K + チャネル Kir2.1を過剰発現することによって、大脳皮質の神経活動を層特異的に抑制する系を確立し、視床でのシナプス終末形成への効果を検証した。まず、Kir2.1遺伝子をCre依存的に発現するように条件プラスミドベクターに組み込み、さらにKir2.1発現細胞で同時にEGFPが発現して細胞と軸索が標識されるようにした。その結果、Kir2.1を発現した大脳皮質ニューロンの視床におけるシナプス終末を蛍光顕微鏡で観察できるようになった。その結果、Kir2.1による神経活動の抑制の効果は、我々が以前に発見した小胞放出の抑制の効果とは異なることが分かった。 申請者が以前にイギリスで用いていたマウスの系統を樹立するために、アメリカとイギリスから必要なマウス系統を輸入し、交配を進めている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
まず、申請者が、以前の所属先であるイギリスの研究機関で用いていた麻酔手術法を現研究機関でも取り入れた。その麻酔法の下で妊娠マウスを用いて、子宮内エレクトロポレーションを行う実験系をセットアップした。胎生13.5日目の脳に子宮内エレクトロポレーションで蛍光タンパク質の発現遺伝子を導入したところ、生後のマウスで蛍光が発現していることが確認できた。実験系としては動いているが、術後の鎮痛剤の投与の方法などに検討の余地がある。 また、Cre依存的にKir2.1を発現する条件ベクターを作成して、同じく子宮内エレクトロポレーションにより、大脳皮質5層特異的に神経活動を抑制する系を確立した。Kir2.1の過剰発現による巨大シナプス終末形成への効果を検証したところ、Kir2.1を発現した神経細胞においても巨大シナプスは正常に形成された。この結果から、Kir2.1による神経活動の抑制の効果は、我々が既に発見しているSnap25欠損による小胞放出の抑制の効果とは異なることを示唆する。 また、染色によって巨大シナプス終末を標識する方法を検討した。大脳皮質5層軸索を標識する抗体はあるが、シナプス終末を標識できる抗体は見つからなかった。大脳皮質5層特異的に標識するCreマウスを入手できたので、それとレポーターマウスをかけ合わせる、または子宮内エレクトロポレーションで条件ベクターを導入することで、巨大シナプス終末を標識する方針である。
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今後の研究の推進方策 |
研究に必要な2系統のマウスをそれぞれアメリカとイギリスから輸入し、さらにその2系統の交配を進めている。大脳皮質5層特異的にCreを発現するマウスはヘテロ接合型のトランスジェニックマウスであるが、子宮内エレクトロポレーションでの実験効率向上のために、ホモ接合型にして用いることが望ましい。現在、ヘテロ接合型の第一世代同士をかけ合わせてホモ接合型マウスを得られるように試みている。 子宮内エレクトロポレーションで大脳皮質ニューロンの遺伝子ノックダウンを行うプラスミドベクターをAddgeneより入手した。今後、そのベクターを用いて、Snap47などのRNAiを行って、その効果を検証する。また、遺伝子発現が落ちていることを確認する際に、抗体を用いたタンパク質発現のチェックだけでなくmRNAの量でも比較できるように、qPCRで遺伝子発現量をチェックできるようにする。 視床後核から抽出したRNAを用いて受託のRNAseqを行う。その後、遺伝子発現解析を行い、巨大シナプス終末形成に必要な遺伝子の候補を選択する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年2月から3月にかけて、共同研究先との打ち合わせのために英国出張をしたが、その費用が次年度(2020年度)に計上された。その渡航費用が前年度の残額の大部分を占めており、次年度に支出される予定である。
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