研究課題/領域番号 |
19K23787
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研究機関 | 国立遺伝学研究所 |
研究代表者 |
松田 光司 国立遺伝学研究所, 新分野創造センター, 特任研究員 (40845228)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | ゼブラフィッシュ / 視覚 / カルシウムイメージング / 神経回路 / 前視蓋 / 興奮性・抑制性 / オプティックフロー |
研究実績の概要 |
視野が回転する場合と平行移動する場合の2種類の視覚刺激は、前視蓋領域の階層的神経ネットワークを介して区別されていると考えられている。本研究は、この階層的ネットワークを構成するニューロンが、異なる視覚刺激の区別において機能的な役割を果たすのかを実験的に検証することを目的としている。本年度は、階層的ネットワークを構成している異なる種類の前視蓋ニューロンを標識するため、(1)前視蓋領域における興奮性・抑制性ニューロンの視覚刺激に対する神経活動記録、(2)神経活動の変化に依存して緑色から赤色に光変換するCaMPARI2を用いた前視蓋ニューロンの探索を行った。 (1) 興奮性・抑制性ニューロン特異的にGCaMP6sを発現する系統の稚魚に対し、4種類の単眼性刺激(左眼/右眼、鼻方向/尾方向)と4種類の両眼性刺激(時計/反時計、前方/後方)を与え、2光子顕微鏡を用いて神経活動イメージングを行った。反応したニューロンを、仮想的な256種類の反応パターンとの相関に基づいて分類した。抑制性ニューロン特異的な系統において、高次な演算を必要とする2つの主要な反応パターンを示すニューロンが見つかった。これらのニューロンの多くは前視蓋領域の腹側/側方に位置し、単眼性刺激と時計/反時計刺激中は交互に反応するが、前方刺激時は同時に活動、後方刺激時は活動しないという複雑な反応を示した。また、興奮性ニューロン特異的な系統では、後交連の一部が視覚刺激に対して活動していることが分かり、前視蓋領域間で興奮性相互作用が存在する可能性が考えられる。 (2) 神経系全体でCaMPARI2を発現する系統を用いて、UV照射と視覚刺激を同時に与える実験系を構築した。両眼性刺激を提示した場合では、静止させた視覚刺激を提示した時と比べて、より多くの前視蓋領域の神経細胞が赤色に変化することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
カルシウムイメージングに用いる2光子顕微鏡及び視覚刺激プロトコールは所属研究室にて既に確立していたため、前視蓋領域に存在する興奮性・抑制性ニューロンの神経活動解析は直ちに着手することができた。そのため、興奮性・抑制性入力による階層的な神経回路基盤により視覚情報の区別をしているという神経回路モデルについて、それらの前視蓋ニューロンの存在を実際に明らかにできつつあり、概ね順調に進展している。CaMPARI2を利用した前視蓋ニューロンの探索においては、新たに顕微鏡システムおよび視覚刺激装置を自作構築し、視覚によって誘導される眼球運動が妨げられない範囲のUV照射光量・照射時間、視覚刺激プロトコールの条件検討を完了している。
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今後の研究の推進方策 |
前視蓋領域に存在する興奮性・抑制性ニューロンについて、視覚刺激に対する反応パターンで分類した後、それらのニューロンが各々どこに位置しているか脳内地図を作製する。現在利用している系統は、ゼブラフィッシュ研究において一般的に用いられてきたが、全ての興奮性・抑制性ニューロンを標識できている可能性は低いことが示唆されている。本研究で神経活動記録を行った系統について、in situ hybridizationや免疫染色法を用いて、どの程度の割合の興奮性・抑制性ニューロンの神経活動記録ができたのか調べる必要がある。その結果を踏まえ、新たな系統の作製や様々なGal4系統から候補系統を使用することを検討する。
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次年度使用額が生じた理由 |
膨大なデータを解析するためのパソコンの選定に時間を要した。次年度は早々に、データ解析用パソコン及び数値解析ソフトウェアを購入する予定である。
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