研究課題/領域番号 |
19K23792
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
長澤 翔太 東北大学, 薬学研究科, 助教 (50846425)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | キュバン / C-H官能基化 / hydrogen atom transfer / 生物学的等価体 |
研究実績の概要 |
医薬品の構造単位として頻出するベンゼン環単位の生物学的等価体として知られる多環式炭化水素であるキュバンについて,多様性に富むキュバンアナログライブラリーの構築によるキュバンの医薬応用への可能性を探索する上で基礎となる手法として,ラジカル的な官能基化方法の開発を目指した.適切な酸化剤との組みあわせで,水素原子の引き抜きを可能にすることが知られている置換基(配向基)を有するキュバン誘導体をいくつか合成した.しかしながらほとんどのものについてはラジカル的反応が進行しない,もしくは系中が複雑化するのみであり,官能基化されたキュバンを得ることは現時点ではできていない.これは,現状の配向基の設計,ならびにラジカル的条件の設定が不適切であるためと考えている.今後は,配向基の再設計と条件の見直しを行い.水素ラジカルの引き抜きを円滑に進行させる条件の探索を続ける. 一方で,研究実施計画に記した方策とは異なるが,近年発展の著しい,配向基を用いた遷移金属触媒による炭素ー水素結合の官能基化反応をキュバンの官能基化に応用する検討も同時進行にて行った.その結果,収率はやや低いものの,特定の配向基を用いた場合にキュバンのC-H結合をC-O結合に変換可能であることが判明した.本結果は,既報のキュバン官能基化法のいずれとも異なる極めて先駆的な例と言える.また,本反応の発見を通して,導入した酸素原子を活用して,種々の薬学的に重要な複素芳香環単位のキュバンアナログを合成するための端緒が切り開かれたと考えている.今後は,反応効率の向上と官能基共存性の確認を行い,先述した薬学的に重要な複素芳香環単位アナログという,未踏分子群へのアクセスを試みる方向に研究を展開する予定である.,
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
実施計画に示した当初の目的である,キュバンのラジカル的官能基化については現状,適切な条件の発見には至っておらず,この点においては研究計画の進捗という観点からは遅れが生じている.一方で,遷移金属触媒によるC-H官能基化反応がキュバンにも適用可能であることを示すことができるという新たな展開を見出すことができた.以上を総合して,概ね順調に進展しているという判断に至った.
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今後の研究の推進方策 |
現在のところ,実施計画に示した方策によって官能基化されたキュバンを得ることができていない理由は,現状の配向基の設計,ならびにラジカル的条件の設定が不適切であるためと考えている.今後は,配向基の再設計と条件の見直しを行い.水素ラジカルの引き抜きを円滑に進行させる条件の探索を続ける.具体的には,配向基のキュバンC-H結合との距離の調整や,より穏和なラジカル発生条件の検討を行う. 一方,配向基を用いた遷移金属触媒によるキュバンのC-H官能基化は,反応効率の向上と官能基共存性の確認を行い,先述した薬学的に重要な複素芳香環単位アナログという,未踏分子群へのアクセスを試みる方向に研究を展開する予定である.反応効率の向上を達成するために,これまでに行った触媒,酸化剤等の検討に加え,前例ではほとんど検討されていないリガンドの検討も試みる.
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次年度使用額が生じた理由 |
申請当初に予定していた物品等はほぼ購入し,研究の途上で生じた必要経費にも余裕を持って対応したが,器械等の故障に対応するために計上した予算を使用する機会が幸運にもほとんどなかった.さらに2019年度の特殊状況として,新型コロナウイルス感染症の蔓延による学会開催等の自粛のため,移動・滞在費がほぼ手付かずの状態になり,加えて研究活動自体も大きく制限される事態になったため,予想以上の繰越が生じる事態となった.これらについては,引き続き国内・国外移動を伴う出張等の制限が継続されると予想されることから,実験等の研究活動だけでも,元通りに可能になった際に使用するための物品費として計上し,研究環境の充実を図る予定である.
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