研究実績の概要 |
ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のウイルス蛋白質R(Vpr)は,宿主の細胞周期をG2期で停止させ,効率的な逆転写を誘導しつつ,サイトカイン合成阻害,アポトーシスの誘導にも関与する多機能性蛋白質である。このVprについては,HIV-1の感染初期に機能してウイルス粒子と宿主蛋白質から形成される感染性複合体の核移行に関わること,HIV-1患者が併発する悪性腫瘍の原因の一つになっている可能性が指摘される等,抗HIV薬開発の新たな標的となり得る信頼できる知見が急速に増加している。本研究では,ミャンマー国内において,エイズに効果があるとされる薬用植物やミャンマー産海綿等からVpr阻害分子を取得することを目的に,今年度においては,ミャンマー産海綿S. massaから調整した酢酸エチル抽出液から,既知ピロロラクタムaldisine,2-bromoaldisine,及びspongiacidine Dを得ることができた。さらに,これらのVpr阻害活性を評価した結果,2-bromoaldisineが10 μMの濃度において, Vpr阻害活性を示すことを明らかにした。さらに,今年度においては,Vpr阻害活性を示すことを既に報告したミャンマー産ニガキ科植物Picrasma javanica樹皮由来イソピマラン型ジテルペノイドのうち,11種類のisopimara-8(14),-15-dien型ジテルペノイドと3種類のisopimara-8(9),15-diene型ジテルペノイドが細胞毒性を示さずに抗炎症活性を示すことを明らかにした。また,抗炎症活性を示した化合物の中でも特に強い活性を示したkaempulchraol P, kaempulchraol Q, kaempulchraol B, kaempulchraol C, kaempulchraol DがIL-6とシクロオキシゲナーゼ2の発現を優位に抑制することで抗炎症活性を示していることを明らかにした。
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