ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)のウイルス蛋白質R(Vpr)は,宿主の細胞周期をG2期で停止させ,効率的な逆転写を誘導しつつ,サイトカイン合成阻害,アポトーシスの誘導にも関与する多機能性蛋白質である。このVprについては,HIV-1の感染初期に機能してウイルス粒子と宿主蛋白質から形成される感染性複合体の核移行に関わること,HIV-1患者が併発する悪性腫瘍の原因の一つになっている可能性が指摘される等,抗HIV薬開発の新たな標的となり得る信頼できる知見が急速に増加している。前年度に引き続き,ミャンマー産海綿Stylissa massaの酢酸エチル抽出液から化合物の単離・精製を進めた結果,Vpr阻害活性は示さなかったものの,新規ピロロラクタムを新たに得ることができた。これまでにS. massaから得た化合物とそれらのVpr阻害活性の結果については現在学術雑誌に投稿中である。さらに,本年度においては,Vpr阻害活性を示したショウガ科植物Kaempferia pulchra根茎の酢酸エチル抽出液からの活性本体の単離・構造決定を試みた。その結果,6種類の新規イソピマランジテルペン,shanpanootols A-Fを2種の既知イソピマランジテルペンとともに単離することができた。これらのVpr阻害活性を評価した結果,2種の新規イソピマランジテルペン,shanpanootol Cとshanpanootol Eが比較的強いVpr阻害活性を有することが判明した。K. pulchraからの化合物の単離・構造決定及びそれらのVpr阻害活性については一報の学術論文として公表した。
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