本年度は細胞の樹立とがん幹細胞性への非定型的活性化型EphA2の寄与、また抗がん剤耐性における非定型的活性化型EphA2の寄与について検討した。 間葉系の性質を有するヒト乳がん細胞MDA-MB-231に対し、EphA2ノックアウト細胞を樹立し、そこへ野生型もしくはSer-897をAlaに置換した変異型EphA2を発現するプラスミドDNAを細胞に導入することで実験に必要な細胞を樹立したが、この細胞では期待する結果が認められなかった。そこで、野生型もしくはSer-897をAlaに置換した変異型EphA2を発現するプラスミドDNAを細胞に導入した安定発現株を樹立した。この細胞を用いて3次元培養すると、野生型ではスフェロイドが形成したが、変異型では形成しなかった。したがって、非定型的活性型EphA2はがん幹細胞性の維持に関与することが明らかになった。 ヒト肺がん細胞株A549に白金製剤シスプラチンを作用させ、EphA2がシスプラチン耐性に関与するかを検討した。A549細胞では、恒常的にEphA2の非定型的活性化が誘導されている。細胞にシスプラチンを作用させたところ、濃度依存的に細胞の生存率が抑制された。EphA2をノックダウンしても細胞生存率は抑制されなかったものの、ノックダウン細胞にシスプラチンを作用させたところ、細胞生存率はより低下した。また、A549細胞に対してシスプラチン耐性をもった細胞株A549-ACR4を用いて検討を行った。親株と比べ、耐性株ではEphA2の発現が上昇した。この耐性細胞に対し、EphA2をノックダウンしたところ、細胞生存率は約7割となり、親株よりも細胞生存率が低下した。また、ノックダウン細胞にシスプラチンを作用させたところ、細胞生存率は約4割となった。以上のことから、非定型的活性化型EphA2は薬剤耐性に関わることが明らかになった。
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