broussonetine Nは1999年、草野らによってクワ科のコウゾから単離構造決定されたイミノ糖型アルカロイドである。本天然物はbroussonetine類の中で唯一ピロリチジン骨格を有し、さらに6つの不斉中心かつ長鎖炭化水素鎖を有する極めて興味深い構造をしている。また本天然物をはじめとしたbroussonetine類は糖類と類似した構造を有するが故に各種グリコシダーゼに対して顕著な阻害活性を示すことが期待されており、糖尿病、がんをはじめとしたさまざまな治療薬へと応用可能であることが期待されている。しかし、broussonetine Nの全合成は未だ報告例がなく、さらに絶対立体配置もモッシャー法による予測に過ぎない。また各種グリコシダーゼに対して比較的強い阻害活性を示すものの、酵素阻害選択性は持ち合わせていない。このような背景の下、broussonetine Nの初の全合成を目指すと同時に、本天然物をリード化合物とした新規グリコシダーゼ阻害剤の創製も視野に入れた柔軟かつ効率的な合成経路の確立を目指し、本研究を企画した。 当初の計画に基づきD-(-)-酒石酸を出発物質として数工程の官能基変換を経て本天然物の母核となるピロリチジン骨格の構築に成功した。残り本天然物が有する長鎖炭化水素鎖の構築に成功すれば全合成が達成できたものの、ピロリチジンの有する塩基性の高さ故に副反応が避けられず、合成経路の変更を余儀なくした。 現在、ピロールへと出発原料を変更し、broussonetine Nの有する長鎖炭化水素鎖の構築に成功した。残るピロリチジン骨格を構築することで本天然物の全合成を達成する予定である。 また得られた合成中間体から数工程で導かれるイミノ糖型化合物に強力なグリコシダーゼ阻害活性を見出した。こちらに関してもより強力な誘導体創製を目指し、さらなる研究を展開する予定である。
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