リン脂質は血漿リポタンパクの主要構成成分であり、主に、ホスファチジルコリン (PC)、ホスファチジルエタノールアミン (PE)、ホスファチジルイノシトール (PI)、ホスファチジルセリン (PS)、ホスファチジン酸 (PA)、ホスファチジルグリセロール (PG)、スフィンゴミエリン (SM)の7クラスに分けられる。本研究では、これまでに開発した各種リン脂質クラスに対する酵素蛍光定量法を応用し、ヒト血漿から分画した高密度リポタンパク (HDL)に含まれる主要リン脂質クラスを網羅的に定量分析することを試みた。 結果、PCおよびSM酵素蛍光定量法では、ヒト血漿HDLを測定試料とした場合でも、希釈直線性試験、添加回収試験、同時再現性試験、日差再現性試験の各種試験で良好な結果を得ることができ、定量法の妥当性が確認できた。また、PE酵素蛍光定量法において、酵素の種類や酵素反応時間、熱処理条件などを変化させることで、上記試験で良好な結果が得られた。しかし、それ以外の酵素蛍光定量法では定量法の妥当性は確認できなかった。このため、本研究では、PC、PE、SM酵素蛍光定量法を用いて、ヒト血漿超低密度リポタンパク (VLDL)、低密度リポタンパク (LDL)、ならびにHDLにおけるリン脂質定量分析を試みた。結果、各リポタンパク画分において、SM/PC比やPE/PC比が大きく異なることを明らかにした。本知見は、リン脂質組成の変化が血漿リポタンパク代謝の一つの指標となる可能性を示している。今後、PC、PE、SMに加え、PI、PS、PA、PGに対する酵素蛍光定量法を、ヒト血漿リポタンパクのリン脂質定量分析に順次応用することで、動脈硬化性冠動脈疾患をはじめとした様々な疾患とリポタンパクリン脂質組成との関係をより詳細に明らかにすることが期待できる。
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