研究課題/領域番号 |
19K23814
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研究機関 | 立命館大学 |
研究代表者 |
藤野 智恵里 立命館大学, 薬学部, 助教 (30844253)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2022-03-31
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キーワード | 薬物代謝酵素 / 薬物トランスポーター / 遺伝子発現調節 / 薬物動態変動要因 |
研究実績の概要 |
薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの遺伝子発現が変動することで医薬品の体内動態が変動し、薬効や副作用発現に影響を与えることがある。本研究では、薬物代謝酵素と薬物トランスポーター両方の遺伝子発現変動に着目し、これらの相互間における遺伝子発現調節の関係性について明らかにすることを目的とした。 前年度には、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞において、排泄トランスポーターの一種であるmultidrug resistance-associated protein (MRP) 2のノックダウンを行ったところ、一部の硫酸転移酵素(SULT)分子種においてmRNA発現が顕著に低下した。この結果を受け、当該年度では、MRP2ノックダウン時におけるSULT分子種のタンパク質発現を検討したところ、SULT1E1の発現が減少することが示された。以上の結果より、MRP2とSULT1E1における相互的な発現調節が生じている可能性が示唆された。また、MRP2のノックアウト細胞では、SULTの遺伝子発現に大きな変動がみられなかった。つまり、一時的なMRP2の発現低下によってのみSULT1E1の代償的な発現減少が生じる可能性が考えられる。 MRP2の基質としてビリルビンや胆汁酸、エストロゲンホルモンの硫酸抱合体が知られているため、MRP2の発現低下によりこれらが細胞内に蓄積することで、SULT1E1の発現を低下させた可能性が考えられる。そこで、これらの内因性物質がSULT1E1発現に与える影響を調べたところ、胆汁酸の一種であるケノデオキシコール酸によりSULT1E1のmRNA発現が低下することが明らかとなった。今後はin vivo実験にて個体レベルでの協奏的な発現調節現象の解明を行い、in vitro実験とin vivo実験の両面から詳細なメカニズム解明を行う予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウィルス感染症拡大防止のため実験の遂行や試薬の入手に時間を要したが、in vitro実験において、一部の薬物代謝酵素と薬物トランスポーター間の相互的な発現調節が生じている可能性を示すことができた。
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今後の研究の推進方策 |
Mrp2の発現が低いまたは欠損している実験動物を用いて、肝臓や小腸における各薬物代謝酵素と薬物トランスポーターの発現と機能を比較することで、個体レベルでの協奏的な発現調節現象の解明を行う。測定項目としては、mRNA発現レベル、タンパク質発現レベル、代謝・輸送活性を評価する。代謝・輸送活性の評価は、レスベラトロール (SULT1E1) などの典型的基質を用いて代謝物をLC-MS/MSにより測定する方法により行う。 また、より詳細なメカニズム解明を行うため、in vitro実験とin vivo実験の両面から、MRP2の発現低下により変動する内因性物質の網羅的探索と協奏的な発現調節を規定する主因子の同定に取り組む。Mrp2の発現が低いまたは欠損している実験動物から血液を採取し、血漿中の内因性物質量をGC-MS/MSなどにより網羅的に解析することで、MRP2の低下・欠損により変動する内因性代謝産物を明らかにする。網羅的解析の結果から得られた変動する内因性物質を、HepG2細胞や初代ヒト肝細胞またはヒト小腸組織片に処理し、各薬物代謝酵素と薬物トランスポーターの発現変動を測定することで、メカニズムとなる内因性物質の候補を絞り込む。 以上の実験により、MRP2とSULT間における遺伝子発現調節の関係性とそのメカニズムについて明らかにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルス感染症拡大防止のため実験の遂行や試薬の入手に時間を要したことで次年度使用額が生じた。次年度使用分は物品費に充てる予定であり、細胞培養用試薬や発現量測定用試薬、内因性物質濃度測定用試薬、ガラス・プラスチック器具などの消耗品費として使用予定である。
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