薬物代謝酵素や薬物トランスポーターの遺伝子発現が変動することで医薬品の体内動態が変動し、薬効や副作用発現に影響を与えることがある。本研究では、薬物代謝酵素と薬物トランスポーター両方の遺伝子発現変動に着目し、これらの相互間における遺伝子発現調節の関係性について明らかにすることを目的とした。 これまでに、ヒト肝癌由来細胞株であるHepG2細胞において、排泄トランスポーターの一種であるmultidrug resistance-associated protein (MRP) 2のノックダウンを行ったところ、硫酸転移酵素 (SULT) 1E1のmRNAおよびタンパク質発現が顕著に低下し、MRP2とSULT1E1における相互的な発現調節が生じている可能性が示唆された。この結果を受け、当該年度は、MRP2が先天的に欠損しているEisai hyperbilirubinemic rat (EHBR) を用いて生体におけるMRP2とSULT1E1の発現調節の関係性について検討した。その結果、コントロールのSDラットと比較して、EHBRの肝臓においてSULT1E1のmRNAおよびタンパク質発現が顕著に低いことが明らかとなった。 一方、他の薬物代謝酵素または薬物トランスポーターの発現変動に着目した研究も遂行した。例えば、グルクロン酸転移酵素 (UGT) 1Aが先天的に欠損しているGunnラットの肝臓では、コントロールのWistarラットと比較して、Ugt2b2のmRNA発現量が顕著に高く、薬物トランスポーターであるbile salt export pump (Bsep) およびorganic cation transporter (Oct) 1のmRNA発現量は有意に低かった。 以上より、複数の薬物代謝酵素および薬物トランスポーター間において、遺伝子発現の相互調節がなされている可能性が示唆された。
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