研究課題
小胞体ストレス応答 (UPR)の破綻や異常活性化は糖尿病、慢性炎症、がん等の様々な疾患の発症に寄与することが知られている。本研究では小胞体ストレスを高感度に測定できるレポーター細胞株と薬理活性化合物ライブラリーを用い、CRISPR-Cas9を組み合わせたケミカルゲノミクスを行うことで、小胞体ストレス応答を制御する新規タンパク質を探索し、その生理機能を明らかにすることを目的とする。これまでに、1万種類以上の薬理活性化合物のスクリーニングを行い、UPRレポーター活性を顕著に増減させるヒット化合物の同定に成功した。本年度は、最も顕著にUPRレポーター活性が変化した2候補についてCRISPR-Cas9系を用いたゲノム編集を行い、ノックアウト (KO)細胞株を樹立した。候補タンパク質の一つは陽イオンチャネルであり、UPR活性化因子の候補として見出された。UPRレポーター細胞のレポーター活性測定により、KO細胞株では野生型よりも小胞体ストレス誘導剤であるツニカマイシンやタプシガルギンに対するUPRが減弱していることが明らかとなった。もう一つの候補タンパク質は受容体チロシンキナーゼであり、UPR抑制因子の候補として見出された。KO細胞株では小胞体ストレス誘導剤の非存在下であるにも関わらず、UPRが活性化していた。さらに、ウエスタンブロットによる解析の結果、IRE1α-XBP1経路特異的な活性化が認められた。以上の結果からケミカルゲノミクス的手法により、UPRを制御する候補タンパク質を同定することができた。今後はさらに詳細な制御メカニズムの解明と生体における意義について解析していく予定である。
2: おおむね順調に進展している
小胞体ストレス応答を制御する複数の候補タンパク質を同定することが出来た。詳細な制御メカニズムの解明と生体における意義の解明を目指して次の実験を進めており、おおむね順調に進展していると判断した。
候補タンパク質の小胞体ストレス応答制御メカニズムについてさらに詳細に解析していく。具体的にはノックアウト細胞株へのレスキュー実験ならびに小胞体内のカルシウムイオン測定やUPR関連因子のリン酸化について検討する。また、生体における意義について内在性に候補タンパク質を高発現する細胞株を用いた検討をすすめる。
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eLife
巻: 8 ページ: e43302
10.7554/eLife.43302