研究課題
アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)は、抗利尿ホルモンとして機能するだけでなく、概日リズムや社会行動も制御する。AVP受容体遺伝子欠損マウスは、てんかん発作や社会行動の低下を引き起こすが、その詳細な発症機構は不明である。そこで、細胞内のシグナル分子や代謝関連分子の動態を可視化する蛍光タンパク質センサーと、行動中のマウスの神経活動を観察できる生体イメージング技術を組み合わせ、その発症機構の解明に取り組んでいる。蛍光タンパク質センサーをニューロンまたはアストロサイトで特異的に発現できる、アデノ随伴ウイルス用プラスミドベクターをマウス脳にインジェクションする実験系を確立した。そして、脳表面を広範囲で撮影することに成功した。一方、脳深部のニューロンまたはアストロサイトを観察する場合に用いる屈折率分布型レンズを、観察部位に挿入する実験系も確立した。しかし、再現性の高い観察には至っていない。生体イメージング技術の確立と並行して、てんかん発作にかかわる細胞内のエネルギー代謝関連分子である乳酸、およびピルビン酸の濃度変化を可視化する蛍光タンパク質センサーの開発を行った。蛍光タンパク質を二つに分割し、乳酸またはピルビン酸に対する結合ドメインを挿入した。蛍光タンパク質と結合ドメインの間のリンカー配列の最適化により、乳酸存在下で蛍光強度が5.2倍に上昇する乳酸センサーGreen Lindoblum、ピルビン酸存在下で蛍光強度が3.3倍に上昇するピルビン酸センサーGreen Pegassosの開発に成功した。これらが各種株化細胞やヒトiPS細胞由来心筋細胞で機能することを見出した(Harada et al., Sci Rep, 2020)。
4: 遅れている
新型コロナウイルス感染症の影響で一時的に大学への入構が規制され、研究活動再開後も動物実験手術をサポートする技術補佐員が出勤停止になるなど、当初の実験計画を遂行することができず、大幅に遅延している。そのため、補助事業期間延長申請を行った。
開発した乳酸、ピルビン酸センサーを含め、蛍光タンパク質センサーを発現するための高濃度のアデノ随伴ウイルスベクターの作製、および屈折率分布型レンズの挿入技術の向上を目指す。超小型内視顕微鏡での観察に成功したのちは、予定通りてんかん発作と社会行動低下の発症機序解明に進む。
新型コロナウイルス感染症の影響で、大学への入構規制、実験動物の飼育規模縮小、動物実験技術補佐員の出勤停止などが起き、当初の実験計画を遂行できなくなった。そのため補助事業期間延長申請を行い、次年度に引き続き研究を進めていく予定である。
すべて 2020 その他
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 備考 (1件)
Scientific Reports
巻: 10 ページ: 1-11
10.1038/s41598-020-76440-4
https://www.c.u-tokyo.ac.jp/info/news/topics/files/20201113sobuntsuboit01.pdf