アルギニンバソプレシン(arginine vasopressin: AVP)は、抗利尿ホルモンとして機能するだけでなく、概日リズムや社会行動も制御する。AVP受容体遺伝子欠損マウスは、てんかん発作や社会行動の低下症状を示すが、その発症機構は未解明である。そこで申請者は、細胞内のシグナル分子や代謝関連分子の動態をリアルタイムに可視化できる蛍光タンパク質センサーと、行動中のマウスの神経活動を観察できる生体イメージング技術を組み合わせ、その発症機構を解明することを目標とした。 発作時に細胞内で起こる応答を分子レベルで確かめるため、マウス由来初代培養ニューロンおよびアストロサイトに、細胞内Ca2+、cAMP、ATP、グルコース、ピルビン酸動態を可視化するための蛍光タンパク質センサーをアデノ随伴ウイルス(adeno-associated virus: AAV)ベクターによって発現させた。てんかん発作モデルに用いられるカイニン酸を投与すると、ニューロンにおいては、細胞内ATPとピルビン酸濃度が持続的に低下する一方、Ca2+とグルコース濃度が上昇した。一方、アストロサイトにおいては、細胞内ATPとピルビン酸濃度が一過的に低下したが、Ca2+とグルコース濃度は変化しなかった。 次に、上記の応答が生体マウスでも観察されるか検証するために、マウス脳に蛍光タンパク質センサーをAAVベクターにより発現させ、屈折率分布型(gradient index: GRIN)レンズを挿入して観察した。現在までに、AAVベクターの脳へのインジェクションとGRINレンズの装着はできている。今後は、GRINレンズに超小型内視顕微鏡を装着して、発作時の各分子の応答観察を行う。それにより、てんかん発作と社会行動低下の発症機序解明を試みる。
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