肛門管の壁を構成する筋層構造を肉眼解剖および免疫組織学的に解析した。 研究の結果、これまで縦に走る一様な平滑筋線維から成ると考えられていた「縦走筋層」に、平滑筋線維の密性領域と疎性領域が共在していることが明らかになった。密性領域では平滑筋線維が束になって集合し、径1.0-1.5mm程度の円柱状構造を作っていた。その密性領域を内方および外方から囲むように平滑筋線維が疎に散在し、疎性領域を成していた。このように、これまで注目されてこなかった肛門管の平滑筋に形態の多様性を見出した。 周囲構造との空間的関係から、密性領域は消化管固有の「縦走筋」の特徴を有し、肛門管の短縮運動に関与すると考えられ、疎性領域は肛門挙筋などの骨格筋との接着を担い、肛門管の固定に寄与していると考えられた。したがって、肛門管の平滑筋は、周囲構造との位置関係に基づいて多様な形態を成し、各平滑筋線維の機能発揮のために最適化されていることが示唆された。 本研究で得られた解剖学的所見は、MRI像との対応関係で重要な意味を持つ。MRIは肛門壁の筋層構造を詳細に描出できるため、癌の浸潤や痔瘻の進展の評価に広く用いられている。特に、本研究の解析対象となった「縦走筋層」は直腸癌のステージ分類の基準となる層(ステージT2とT3を分ける層)であり、また痔瘻の原発部位ともなる重要な構造である。本研究では、臨床のMRI像と組織像を対比し、縦走筋層の密性領域と疎性領域がどのように描出されるかを考察した。その結果、密性領域は低信号域として、疎性領域は高信号域として描出されるような対応関係が見られた。このように、本研究の解剖学的知見を基に肛門管MRIの詳細な読影が可能となり、直腸癌や痔瘻の術前後評価の向上が期待される。
|