研究課題/領域番号 |
19K23823
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研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
加藤 耕治 名古屋大学, 環境医学研究所, 特任助教 (40844056)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2023-03-31
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キーワード | レトリーバー複合体 / VPS35L / エンドソーム / 筋肉 / 骨形成異常 / 3C症候群 |
研究実績の概要 |
我々はVPS35L遺伝子の両アレルの機能喪失型バリアントが新規の先天異常症候群の原因となることを報告した。VPS35Lはretriever複合体のコアタンパクで、エンドソームにおいて細胞膜タンパクのリサイクリングを通して、細胞膜タンパクの発現量を維持する役割を担っている。従って、VPS35Lを細胞株で欠損させることにより、様々な細胞膜タンパクの発現量が低下することを示している。 VPS35Lにバリアントを有する患者の報告は現時点で我々が報告した1家系2例のみであるが、同様の症状を有する患者のエクソーム解析により、新たに3例を同定した。従って、現時点で4家系5症例の臨床情報を有しており、共通する表現型として頭蓋顔面の形成異常、脳形成異常、精神運動発達の遅滞、低身長、骨格系の形成異常、脂質異常症、タンパク尿、免疫学的異常、全身性の筋緊張低下が挙げられることを明らかにした。 これらの臨床的特徴の背景に存在する分子メカニズムを明らかにするため、VPS35Lの欠損マウスモデルを作製した。生殖細胞系列においてVPS35Lを欠損させると胎児期早期(E7.5-E8.5)に死亡することを明らかにした。これにより、VPS35Lが発生に重要な役割を果たすことを確認した。続いて病態理解を進めるため、組織特異的VPS35L欠損マウスを作成した。特に患者の中枢神経系と筋骨格系の臨床症状の病態を解析するため、中枢神経系特異的KOマウスと、骨格系特異的KOマウスを作成した。 中枢神経系の解析に関しては、細胞膜表面のタンパク発現変化に着目して病態を理解するため、初代神経細胞を用いて細胞膜表面蛋白のプロテオーム解析を行い、VPS35Lの機能障害により発現量が変化するタンパクを多数同定した。 骨格系においては、間葉系幹細胞特異的KOマウスで有意な筋力低下を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者の集積や臨床情報の収集に関しては、国際共同研究により現時点で4家系5症例の集積をすることが出来、変異の機能解析や患者で見られた脂質異常症の病態解析を行い、現在論文を投稿中であり、順調に進捗していると考えている。これにより、初報の論文では1家系のみであったために、重症度や合併症などに関して全体像が掴めていなかったが、表現型や重症度の多様性があること、以前では報告されていない症状を報告することで、更なる臨床像の理解が進み、臨床的な管理や新たな症例の診断に役立つことを期待している。 病態解析を進める上で必要なマウスの作製に関しても、KOマウスが胎生早期に致死であることを受け、組織特異的KOマウスを作製することが出来ており、順調に進捗していると考えている。中枢神経系、骨格系のKOマウス共に予想よりも重度の表現型を呈していることにより、解析に十分なまで成長する個体が限られ、表現型が重度であったため行動解析を行うのが難しい。また、患者変異を導入したノックインマウスに関しても、F1系統からB6に純化させたところ、胎生致死となった。これらに対して、表現型や病態の詳細な解析を行えるようCreの種類を変更したり、ノックインマウスの系統の調整を行った。 病態解析に関しては、筋力低下の病態として間葉系幹細胞から分化するペリサイトの機能不全を原因とするのではないかという仮説を立てて検討を進めたが、ペリサイト特異的KOマウスで明確な表現型を認めなかった。またペリサイト細胞でのVPS35L欠損においても明確な血管形成能などの変化を認めなかった。これらはネガティブデータではあるが、病態理解には重要なデータを得ることが出来たと考えており、現在はCreのLineageにおける他の細胞種にFocusをして病態解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
臨床像に関しては、現在投稿中の論文を基に、更なる臨床像の理解に努めていく。そのために国際共同研究を更に発展させ、症例の集積を進める。 中枢神経系の解析に関しては、マウス、細胞を用いて病態理解を進める。マウスに関しては神経堤細胞で組換の起こるNestin-Creマウスを用いてNestin-KOマウスを樹立しているが、このcKOマウスは表現型が強くて行動解析が難しいため、分化した神経細胞特異的に組換の起こるSynapsin-Creを用いてKOマウスを樹立したので、そのマウスを用いて行動解析を行うことを予定している。また、Nestin-cKO、Synapsin-cKOマウスを用いた病理解析を行い、発生段階のどの段階でVPS35Lとretriever複合体が重要な役割を果たしているのかを検討する。 中枢神経系の細胞レベルでの解析に関しては、現在採取したProteome解析のデータと臨床像を統合することにより、表現型の原因となっていると考えられる細胞膜の機能不全を示していくことを目標とする。 筋骨格系の病態解析に関しては、筋力低下を示しているcKOマウスにおいて線維化や中心核を認めることを明らかにした。これが筋力低下の原因と考えており、より詳細なメカニズムを検討していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由としては、1.新型コロナウイルスの影響、2.研究支援部署の人員配置の都合、3.マウスモデルの表現型による影響が挙げられる。 新型コロナウイルスの感染蔓延が長引き、人的資源や実験に必要な薬品の流通遅延などにより実験の一部を先延ばしする必要があった。また、研究支援部署に標本作成などを依頼しているが、職員の退職により標本作成が困難となった時期があった。従って、標本作成が遅延したことにより、その支払いが翌年度に繰り越しとなった。加えて、マウスモデルの表現型が想定より重度で、解析する前に死亡してしまうことがあったため、解析検体数が想定より少なくなった。 繰越した金額を用いて、既に提出済みのサンプルを含め、マウスモデルの病理解析のための実験に必要な基本物品や試薬の購入、標本作成依頼料などに使用する予定である。
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