N-アシル-ホスファチジルエタノールアミン (N-アシル-PE) は細胞の膜脂質を構成するリン脂質であり、脂質メディエーターであるN-アシルエタノールアミンの前駆体としても機能する。N-アシル-PEはN-アシル転移酵素によってグリセロリン脂質の脂肪酸鎖がPEのアミノ基に転移されることで合成される。最近、細胞質型ホスホリパーゼA2ε (cPLA2ε:別名PLA2G4E) がCa2+依存的にN-アシル転移酵素活性を示す酵素として同定されたが、細胞レベルでcPLA2εがどのようなN-アシル-PEを生成するのかはほとんど明らかになっていなかった。そこで我々は、ヒトcPLA2εを恒常的に発現するHEK293細胞を樹立し、同酵素によって合成されるN-アシル-PEや関連脂質分子を細胞レベルで分析した。Ca2+イオノフォアであるイオノマイシンによってcPLA2ε発現細胞を処理すると、N-アシル-PEがコントロール細胞と比較して10倍以上にまで増加した。液体クロマトグラフィー・タンデムマススペクトロメトリーによる分析より、飽和または一価不飽和脂肪酸をN-アシル基に含むN-アシル-PEが著増していた。また、sn-2位に多く存在する多価不飽和脂肪酸を含むリゾリン脂質が増加していたことから、cPLA2εは主としてリン脂質のsn-1位の脂肪酸をPEに転移していることが示唆された。N-アシルエタノールアミンも10倍以上増加しており、そのアシル基組成はN-アシル-PEと同様の傾向を示した。以上の結果から、ヒトcPLA2εは主としてリン脂質のsn-1位に結合している飽和および一価不飽和脂肪酸を転移してN-アシル-PEをCa2+依存的に生成し、そこからN-アシルエタノールアミンが生成されることが示唆された。
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