研究課題/領域番号 |
19K23832
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研究機関 | 山陽小野田市立山口東京理科大学 |
研究代表者 |
鶴留 優也 山陽小野田市立山口東京理科大学, 薬学部, 助教 (80846254)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 概日リズム / 細胞膜タンパク質 / 足場タンパク質 |
研究実績の概要 |
細胞は膜に発現するタンパク質を介して外部からの刺激による情報伝達、栄養成分の取込み、老廃物の排泄などを行っている。これら膜タンパク質の一部には、その機能が24時間周期で変動する概日リズムが認められており、細胞の生理機能にも影響を及ぼす。そのため、膜タンパク質の発現リズムの変化は、栄養バランスの崩壊に伴う代謝性疾患の発症につながる。膜タンパク質の細胞膜における局在には、それを下支えする「足場タンパク質」が不可欠である。本研究では、足場タンパク質の発現リズム制御メカニズムの解析と、生体リズムの破綻に伴う足場タンパク質の発現リズム変容が引き起こす代謝性疾患の発症リスクについて解析した。 初めにMSPの膜発現リズムを規定する因子の同定を行った。コアループを形成する時計遺伝子の改変マウスの肝臓内では、キナーゼの発現や活性、リン酸化MSPの発現リズムが増減することを明らかにした。また、キナーゼの活性に影響を及ぼす因子として生体内低分子に着目し検証を行ったところ、肝臓に多く含まれる脂溶性分子の中にキナーゼの概日変動を制御する分子があることを見出した。 次に、摂食の時刻を変えた際にMSPの発現変動がどのように変化するかを検証した。休息期に該当する明期のみに摂食を与えたマウスを作成し、作成したモデルマウスにおけるMSPの発現変動を評価したところ、MSPの膜発現における概日変動が消失し高値を示すことが明らかとなった。これはMSPの発現リズムは時計遺伝子による制御だけでなく、摂食のタイミングやその栄養素によっても変動することを示すものである。 本研究のさらなる解析は、足場タンパク質の発現リズムの変調が、トランスポーターの機能低下を介して代謝性疾患の発症に繋がることを明らかにする糸口になるものであり、「規則正しい生活リズムが健康の保持において重要である」ことを分子レベルで証明できる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「足場タンパク質MSP」に着目し、体内時計の制御機構の観点から栄養成分の膜輸送に関わるトランスポーターの発現制御機構を明らかにすることを目的に検証を進めた。 初めにMSPの膜発現リズムを規定する因子の同定を行った。時計遺伝子はコアループを中心としたフィードバック機構によって、様々な生体リズムを制御している。MSPが細胞膜に移行する過程には自身のリン酸化が重要であるという所見を得たことから、リン酸化に関与するキナーゼが時刻依存的に変動することで、MSPのリン酸化過程に概日リズムが生じると考えた。実際、コアループを形成する時計遺伝子(CLOCK, PER)の改変マウスの肝臓内では、キナーゼの発現や活性、リン酸化MSPの発現リズムが増減することを明らかにした。また、キナーゼの活性に影響を及ぼす因子として生体内低分子に着目し検証を行ったところ、肝臓に多く含まれる脂溶性分子の中にキナーゼの概日変動を制御する分子があることを見出した。次に、摂食の時刻を変えた際にMSPの発現変動がどのように変化するかを検証した。通常マウスは暗期が活動期であり、摂食もその時間に活発になる。そこで、休息期に該当する明期のみに摂食を与えたマウスを作成し、体内の時計遺伝子が反転するモデルマウスを作成した。作成したモデルマウスにおけるMSPの発現変動を評価したところ、MSPの膜発現における概日変動が消失し高値を示すことが明らかとなった。これはMSPの発現リズムは時計遺伝子による制御だけでなく、摂食のタイミングやその栄養素によっても変動することを示すものである。
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今後の研究の推進方策 |
今後は代謝性疾患とMSPの発現リズム変容に関した解析を行う予定である。 飼育環境の明暗周期を不規則に変化させることで作製した「生体リズム変調モデル動物」を用いて、通常環境下で飼育したマウスと比べて、胆汁酸の含量や栄養素輸送トランスポーターの発現がどのように変容しているかを検証する。また、輸送される栄養成分によって生じる生理機能(細胞膜の合成、β酸化や解糖系によるATP産生能、タンパク質の修飾・合成)についても評価を行う。さらに血液中や臓器中におけるブドウ糖、脂質、アミノ酸濃度、血清中の代謝性疾患マーカーを測定し、生体リズムの変容が代謝性疾患の発症リスクを上昇させるか否かを検証する。
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