本研究の目的は『ペリサイト特異的ATP依存性カリウムチャネル異常が心疾患を誘発する』という仮説を検証し、ペリサイトによる心機能調節機構の分子基盤を明らかにすることである。心臓におけるKCNJ8およびABCC9遺伝子によってコードされるKir6.1およびSUR2Bから構成されるATP依存性カリウムチャネルの組織発現を明らかにするため、本年度ではマウスのアミノ酸配列を基に作成したSur2B抗体が、培養細胞に強制発現させたヒトSUR2Bタンパクも認識し免疫染色に使用できることが分かったので、マウスに加えヒトの心臓におけるSUR2Bの発現分布を検討した。加えて、ペリサイト特異的ATP依存性カリウムチャネルによる心機能調節機構の分子基盤を明らかにするため、本年度はKcnj8条件付き遺伝子欠損マウスの解析を試みた。これまでに全身性のKcnj8欠損個体が心肥大と心臓障害を呈することを確認していたが、発生初期ではペリサイトに加え心外膜細胞に本チャネルが発現する可能性が分かり細胞発生異常が心機能異常を惹起する可能性を考慮し、成獣においてタモキシフェン依存的なKcnj8の遺伝子欠損を試みた。壁細胞選択的Pdgfrb-CreERT2によりKcnj8欠損を試みたが、導入したPdgfrb-CreERT2が上手く機能せず再度Pdgfrb-CreERT2を用いた実験系の構築を試みた。また全身性のactb-CreERT2を用意したが、心臓のペリサイトでは組換え効率が低いことが分かり、ペリサイトの臓器特異的遺伝子発現差異が示唆されるとともに、臓器特異性を考慮した遺伝子機能制御モデルを確立する必要性が示された。
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