百日咳菌(Bordetella pertussis)はヒトからヒトへの感染により伝播され、貧栄養状態となる自然環境下では生育できないとされてきた。しかし、環境アメーバと共存することにより、百日咳菌が貧栄養状態でも生育することを見出している。このことから自然環境中で生育した百日咳菌が感染源となる可能性を想定し、その制御のためにアメーバ依存的な百日咳菌の増殖様態の解明を試みた。 百日咳菌とその近縁菌である気管支敗血症菌にGFPをレポーターとして導入し、アメーバとの共培養下における動態を比較解析したところ、気管支敗血症菌がアメーバ細胞内に集積することが確認された。一方で、百日咳菌においては、アメーバ細胞内での集積は観察されなかった。このことから百日咳菌はアメーバ細胞内で増殖することはなく、アメーバ細胞外を増殖の場としていることが示唆された。 百日咳菌の培養条件を検討したところ、アメーバとの直接的な接触は必要なく、アメーバの培養上清中で増殖することが確認された。また、この増殖は37℃では観察されず、20℃という比較的低い温度でのみ観察された。そこで、百日咳菌の遺伝子発現を温度依存的に制御することが知られているBvgASシステムの関与を検討したが、培養上清中での増殖はBvgASシステム非依存的であることが確認された。また、アメーバ以外の原生生物と百日咳菌との関係を調べたところ、アメーバ以外の原生生物の培養上清中においても百日咳菌が増殖することが確認された。アメーバの培養上清中に含まれる百日咳菌の増殖補助因子について解析を行ったところ、熱抵抗性かつ低分子であることがわかり、アメーバ由来の代謝産物であることが示唆された。 これらのことから、環境中の原生生物由来の代謝産物が、低温においては百日咳菌の増殖を補助している可能性が示された。
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