マラリアやリーシュマニア症は、ヒトに深刻な症状を呈する吸血昆虫媒介感染症である。それらの病原体はそれぞれ感染可能な吸血昆虫が決まっているが、どのような因子によって規定されているのかは未だ不明である。本研究では、病原体の発育・ヒト感染能力を獲得する上で重要な吸血昆虫の腸内に着目し、腸内環境を変化させることが期待される糖類を用いて感染の成否を決定づける因子を明らかにする。本年度の研究実績の概要は以下の通りである。 1)ルシフェラーゼアッセイを用いたハマダラカ腸内におけるマラリア原虫数の簡易定量法を確立した。2)ハマダラカ腸内におけるマラリア原虫の発育を阻害する糖類のスクリーニングを1)の簡易定量法を用いて実施し、16種の糖類の内、希少糖であるアロースが効果を示した。3)アロースのマラリア原虫発育阻害試験をin vitro培養条件下で実施し、アロースがマラリア原虫の発育に直接作用していないことを明らかにした。4)アロース摂取群及び未摂取群のハマダラカ腸内細菌叢を解析した結果、マラリア原虫感染後10日目にPseudomonas属細菌の存在比が未摂取群と比べて高いことがわかった。5)人工吸血法によるサシチョウバエへのリーシュマニア原虫の感染実験を実施したところ、吸血サシチョウバエ数、リーシュマニア感染率が非常に低いため、吸血方法の改善が必要であることがわかった。 以上の結果から、ハマダラカマラリア原虫感染モデルにおいて、希少糖のアロースの影響による腸内環境の変化に起因して、マラリア原虫の発育阻害が生じたことが示唆された。一方で、サシチョウバエ及びリーシュマニア原虫感染モデルにおいては、人工吸血法を用いたリーシュマニア感染サシチョウバエの調製方法を改善する必要がある。
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