研究課題
コレラ菌をはじめとした多くの腸管系病原菌は、汚染水を介して消化管内に侵入すると線毛と呼ばれる糸状の構造物を形成し、標的細胞への付着と定着を達成することで、コレラ毒素を産生し、激しい下痢症状を引き起こす。この定着過程は、ヒトへの感染を成立させるための最も重要なステップであることから、定着を阻害することができれば、コレラ菌を殺さず静菌的に体外に排除することで、耐性菌の出現を抑えることができると予想されており、有望な創薬標的であると考えられているが、その詳細な分子メカニズムは不明である。本研究では、コレラ菌が産生し、定着過程に重要であると予想されるIV型線毛と分泌タンパク質の物理化学的解析および生化学的解析を通して、コレラ菌の定着機構の解明を行い、さらに得られた情報から、抗生物質に替わる新規の感染阻害剤の開発を目指す。本年度は、コレラ菌のIV型線毛の先端部に位置する線毛構成タンパク質の結晶化を実施し、特徴的な三量体構造を原子レベルの分解能で決定することに成功した。さらに、等温滴定型熱量計を用いた相互作用解析により、当該線毛構成タンパク質は、コレラ菌が菌体外に産生し、定着過程において重要となる分泌タンパク質と結合することを初めて明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
本年度は、コレラ菌のIV型線毛の先端部に位置すると予想される線毛構成タンパク質(マイナーピリン)の結晶化を実施した。コレラ菌のマイナーピリンは三量体を形成する大型のタンパク質であり、結晶化と解析に多くの時間を費やすこととなったが、最終的にX線結晶構造解析法により、最高分解能2.4Åで立体構造の決定に成功した。さらに、等温滴定型熱量計を用いた相互作用解析により、マイナーピリンはコレラ菌が菌体外に産生する分泌タンパク質と結合することを明らかとし、解離定数、結合比等の情報を取得することにも成功した。これらの研究成果は、コレラ菌の腸管定着機構を解明するうえで極めて重要な知見を含んでいることから、全体としては順調に進展していると判断できる。
次年度は、本年度に得られた結晶構造情報と相互作用情報に基づいて、マイナーピリンと分泌タンパク質の複合体の結晶化を試みる予定である。過去に構造決定に成功した腸管毒素原性大腸菌のマイナーピリンと分泌タンパクの複合体では、分泌タンパク質のN末端断片を結晶化に用いた。コレラ菌の分泌タンパク質においてもN末端領域がマイナーピリンとの結合に重要であると示唆される知見があることから、同様の手法で複合体の結晶化を目指す。
当初は、クローニングに必要なオリゴDNAの合成を計画していたが、実験計画の変更に伴い購入する必要が無くなったことから残金が生じた。次年度では、別件のクローニングにオリゴDNAが必要となる予定のため、そちらに使用する予定である。
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