B型肝炎ウイルス(HBV)は潜伏感染から、慢性肝炎、さらには肝癌を引き起こす。HBV感染者は世界中で20億人、HBV潜伏感染者は3.5億人、HBV関連疾患での死亡者数は50-70万人にのぼる。HBVに感染した患者は、不顕性感染となる場合が多いものの、一部の患者は急性肝炎を発症する。一方、インフルエンザウイルスなどの急性ウイルス感染症を引き起こす病原体とは異なり、HBVは肝細胞に潜伏感染することができる。特に出産時や幼児期に感染した患者は、免疫系が未熟であるが故にHBVの潜伏感染が起こりやすいことが知られている。しかし、潜伏感染がどのように維持され、どのような機序で肝炎・肝癌発症に至るのか、免疫学的に十分な解析は行われておらず、様々な課題が残されている。 そこで申請者は、自己免疫抑制の要として知られる制御性T細胞が、HBVの潜伏感染状態からの病態発症に関与している可能性を検討することにした。 まず、B型肝炎モデルマウスおよび上制御性T細胞を薬剤選択的に除去可能な遺伝子改変マウスを掛け合わせ、薬剤選択的な制御性T細胞欠損B型肝炎モデルマウスを作出した。作出したマウスではB型肝炎モデルマウスの特徴を有しつつ、制御性T細胞を選択的に除去できることを確認できた。さらに、現在、制御性T細胞を一時的に除去するタイミングについて検証を行っており、興味深い結果を得られつつある。 これらの結果はB型肝炎ウイルス潜伏感染から慢性肝炎・肝癌発症に至る過程に置ける制御性T細胞の機能解明につながることが期待される。
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