研究代表者はT細胞分化に重要な転写制御因子Special AT-rich sequence binding protein-1 (SATB1)を血球系細胞特異的に欠損する SATB1cKOマウスを用いて、免疫寛容成立のメカニズムを解析してきた。SATB1cKOマウスは生後早期からシェーグレン症候群(Sjogren's syndrome; SS)様の唾液腺炎、涙腺炎を呈し、加齢と共に全身性エリテマトーデス(SLE)様の全身性自己免疫疾患を発症することが明らかとなっている。本研究では、SATB1cKOマウスを用いて、SSの初期病態形成から、その後の全身性自己免疫疾患へ病態が進展するメカニズムを明らかにすることを目的とした。SS 症状を呈したSATB1cKOマウス頸部リンパ節T細胞を、生まれつきT細胞を持たないヌードマウス(C57BL/6 nude)に移入すると、ヌードマウスの血清中にSSの診断に用いられる抗SSA/Ro抗体、抗SSB/La抗体が検出され、これらは経時的に増加していた。また、ヌードマウスの頸部リンパ節中のB細胞をフローサイトメトリー解析した結果、GL-7陽性、CD95陽性の胚中心(germinal center : GC)B細胞が確認された。さらに唾液腺の病理組織学的解析により、唾液腺にはGC様構造が認められたが、通常のリンパ節や脾臓で見られるGC構造とは異なる細胞分布であることが明らかとなった。これらの結果から、SATB1cKOマウスの頸部リンパ節には、SS様症状を発症させる病原性T細胞が存在し、これらの細胞は唾液腺組織破壊と自己抗体産生を長期間にわたり維持できる機能を持つことが示唆された。
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