研究課題
癌による死者数を減らすためには，癌の生物学的特性に関する深い理解が必須である。癌の悪性度進展に伴い獲得される，浸潤転移能や免疫逃避能には，元来正常細胞で発見された上皮間葉転換(EMT)が深く関与することが知られている。本研究は，ミトコンドリアの機能や動態がEMTで制御されるメカニズムを解明することを目的として行われた。すでにEMTの誘導前後で発現変動するタンパク質を複数同定し，本研究ではそのタンパク質と酸化的リン酸化への関連を調べると同時に，EMT誘導前後におけるミトコンドリア動態や，ミトコンドリア内代謝産物に対する影響を調べた。2020年度は，常乳腺上皮細胞のみならず，EMT誘導が可能な肺癌上皮細胞を用いて，酸化的リン酸化の解析を行った。正常細胞と癌細胞では，EMT誘導後における注目タンパク質の挙動に差異は見られなかったが，酸化的リン酸化に違いが認められた。当初，想定していたモデルでは，注目タンパク質の発現レベルが低下することで，ミトコンドリア品質が上昇することを仮定していたが，実際にはミトコンドリア品質に影響は見られず，モデルの再設計が必要となった。また，注目タンパク質の機能ドメインに変異を導入した構築を用意し，その変異タンパク質による酸化的リン酸化測定を行ったが，想定していた現象が見られなかったため，注目タンパク質以外にパラレルに動いているメカニズムが考えられた。今後は，この注目タンパク質の機能解析を行う必要がある。全体を通して，上皮間葉転換によって正常上皮細胞が担う酸化的リン酸化活性亢進を解く手がかりが得られた。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)
Communications Biology
巻: 4 ページ: 1-11
10.1038/s42003-021-01675-4
