研究課題/領域番号 |
19K23879
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
末原 泰人 筑波大学, 附属病院, 病院助教 (90844811)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | 血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫 / 機械学習 / 全エクソームシーケンス解析 |
研究実績の概要 |
血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫(Angioimmunoblastic T-cell lymphoma: AITL)およびその他の濾胞性ヘルパーT細胞(T-follicular helper cell: TFH)の特徴を持つリンパ腫を対象に、ゲノム異常および遺伝子発現プロファイルによる亜分類を試み、亜分類と予後を含む臨床像との関係を明らかにする目的で研究を実施した。現在までに、AITLおよび末梢性T細胞リンパ腫, 非特定型(Peripheral T-cell lymphoma, not otherwise specified: PTCL-NOS)119例に対して、全エクソームシーケンス解析を行った。 (1)頬粘膜スワブ等の正常対照検体のある症例は18例であり、101例は正常対照検体が得られなかった。後者についても正確に体細胞変異を推定するため、正常対照検体を有する15例のデータをランダムに学習データと検証データに分割し、体細胞変異/生殖細胞系列変異分類のための予測モデルを構築した。 (2)ゲノム DNA量が少ない検体では、ライブラリ作成前に全ゲノム増幅(whole genome amplification, WGA)を行った。WGA検体は非WGA検体と比較した場合、WGA時のエラーとしてコピー数異常、重複や逆位などの構造異常、ホモポリマー領域での挿入が起こっている事を見出し、エラーとして取り除く解析法を構築した。 (3)MutSig2CVというツールにより、パッセンジャー変異と思われる遺伝子変異を除く解析を行った。例としてTTN遺伝子変異はパッセンジャー変異と推定された。 (4)その他、構造異常としてVAV1遺伝子のタンデム重複の検出、GATK4でのコピー数異常の解析、EBウイルスゲノム にマッピングされるリード数の割合が高い群/低い群が存在することを見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
データ解析自体は完了していないが、ゲノム 解析方法の妥当性検証がおおむねできており、今後の研究遂行は円滑になされることが期待されるため、「おおむね順調」とした。 (1)体細胞変異/生殖細胞系列変異について、主にRのpackageを使用してランダムフォレストによる予測モデルを構築した。モデルの感度86.6%、特異度98.4%、陽性的中率87.8%、隠棲的中率98.2%、F値0.86であり、体細胞変異予測のための因子として重要度が高いのは、変異アレル頻度、いわて東北メディカルバンクでのアレル頻度, EB callでのP値であった。 (2) 既に報告されているT細胞リンパ腫のコピー数異常が本研究でも確認できたため、全エクソーム解析データを使用したコピー数異常の検出について、適切に解析できていると判断した。例として、AITL症例の一部に5番染色体のコピー数低下とIDH2遺伝子変異を伴う一群を認めること、TP53変異を有する症例ではTP53のコピー数低下が確認された。 (3)全エクソーム解析のライブラリ作成において、EBウイルスゲノムを対象としたキャプチャベイトは置いていないため、検出されるEBウイルスDNAの配列はコンタミネーションである。腫瘍組織中のEBウイルス感染細胞が多ければ、検出されるEBウイルスDNAリード数が多いという仮説が立つ。EBER-ISHデータとの比較、および、他のゲノム 異常との共在性・排他性については未解析である。 (4)全エクソーム解析に関して、遺伝子変異および構造異常検出、コピー数解析が問題なく実施できているが、その結果を統合し、非負値行列分解(non-negative matrix factorization, NMF)でのクラスター分けを行うまでには至っていない。
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今後の研究の推進方策 |
(1)未解析検体のライブラリ作成・全エクソーム解析を実行する。 (2)腫瘍細胞比率の推定と、それに合わせたコピー数異常の解析法を確立し、実行する。 (3)nCounterシステムを利用した遺伝子発現解析、および免疫染色でのTFHマーカーの確認について進めていく。 (4)ゲノム解析の結果に基づいたクラスター分類を行う。クラスター毎の生存解析を行い、ゲノム 異常の情報が既存の予後予測モデル(International Prognostic indexやPrognostic index for peripheral T-cell lymphoma unspecified)を改善するか検討する。また、AITLの特徴的な臨床所見(皮疹、自己抗体陽性、ポリクローナルな高γグロブリン血症、好酸球増多など)の存在との特定のゲノム異常の相関について探索する。
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