研究実績の概要 |
近年、AhRノックアウト(KO)マウスの回盲部に大腸炎を伴いながら腫瘍が自然発生することが示された。本研究は、Enterotoxigenic Bacteroides fragilis (ETBF) の投与がこの腫瘍発生を促進するか否かを解析することを目的とする。 昨年度までに、当初予定したETBFの少量投与と、ETBFを大量投与(10^8-10^9個)した野生型マウスとのco-housingによる共感染という方法では、AhR KOマウスへの感染が成立しないという結果が得られた。またETBFの大量投与によりAhR KOマウスが必ずしも短期間で死亡しないことも明らかとなった。そこで、10^9個程度のETBFを2週間に1回投与する実験系を用いて、ETBFのAhR KOマウスへの感染を確認した。10回投与(20週)の時点では回盲部に好中球浸潤を認めるものの腫瘍発生に大きな変化を認めなかったため、最終的に(1)10^9個程度のETBFを隔週20回投与(40週)、(2)10^9個程度のETBFを隔週3回、毎週20回投与(26週)、の2つの実験系を用いた。 (1), (2)とも、ETBF投与の野生型マウス、ETBF非投与のAhR KOマウスと比較して、ETBF投与のAhR KOマウスでは投与中の死亡率が上昇した。また、ETBF投与の野生型マウス、ETBF非投与のAhR KOマウスでは回盲部に病変を認めなかったが、(1)ではETBF投与のAhR KOマウス8匹中1匹に顕微鏡的な過形成を、(2)では3匹中1匹に肉眼的な腫瘍を認めた。 予備実験と異なりETBF大量投与でもAhR KOマウスは短期間で死亡せず、また先行研究と比較してAhR KOマウスの病変の発生率は大きく低下していた。長期飼育の過程での腸内細菌叢の変化や炎症反応に対する感受性の低い個体の選別がこれらの原因であることが示唆された。
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