本研究はメトホルミンと抗PD-1抗体併用による腫瘍退縮の実験系を用いて、腫瘍浸潤CD8T細胞(CD8 TILs)、腫瘍細胞の同時解析によって腫瘍微小環境の代謝を制御する因子を活性酸素(ROS)の関与も含め、明らかにすることを目的としている。本研究を遂行する過程でメトホルミンの誘導する抗腫瘍効果にROSを起点とした解糖系並びにNrf2-mTORC1 経路の活性化がCD8TILsにおいて起こることが重要であることが分かってきた。解糖系の亢進はサイトカイン産生、Nrf2-mTORC1経路の活性化は細胞増殖にそれぞれ寄与している。また、メトホルミンの効果は活性化CD8T細胞特異的にNrf2を欠損させることの出来るNrf2 コンディショナルKO マウスを用いると消失したことから、メトホルミンによる抗腫瘍効果には活性化CD8TILsのNrf2が必須であることも確認出来た。さらに、腫瘍細胞の解析も同様に行ったところメトホルミンおよび併用治療は腫瘍細胞のNrf2-mTORC1経路には影響を与えていなかった。しかし解糖系の有意な低下が認められた。それらの現象を引き起こす因子を同定するため併用治療時の腫瘍塊からCD8 TILs、腫瘍細胞を回収し、RNA シークエンスによる遺伝子発現解析をしたところ、CD8 TILs、腫瘍細胞共にIFNγシグナル関連因子の発現が増加していた。さらに腫瘍切片から代謝関連分子をイメージング化し、in situ 代謝解析を行ったところ、特定のアミノ酸の発現分布の変動も認められた。本研究成果からメトホルミンによる免疫治療はCD8TILs に対してはROS、そして腫瘍細胞に対しては活性化CD8TILs が産生するIFNγを介してそれぞれの細胞の代謝を制御するという新たな知見を得ることができた。
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