私たちは、骨髄腫細胞が骨髄微小環境との相互作用によって獲得する薬剤耐性機構の解明を進めてきた。しかしながら、多発性骨髄腫治療のキードラッグであるlenalidomideに対する耐性獲得機序については未解明のままである。今回の研究では、ChIPシークエンスとChIP-Atlas softwareによるゲノムワイドなスクリーニングから、耐性獲得に寄与するIkaros複合体および新規標的遺伝子の探索を行った。前年度の結果から、Ikarosの転写活性化に働くパートナー候補として転写因子Fosを見出した。初めにFosをノックダウン(KD)したところ、IRF4とSLAMF7発現が低下した。さらにKDに加えlenalidomideを作用させると、これら遺伝子の発現がさらに低下することが判明した。そこでFosがIkarosと複合体を形成していることを明らかにする為、免疫沈降法を実施した。その結果、IkarosとFosが複合体を形成していることを確認した。 一方、新規抗骨髄腫薬として期待されるvenetoclaxの至適併用薬の探索を目的に、Bcl-2遺伝子のプロモータ領域に結合する転写因子をChIP-Atlas softwareにより解析したところ、AiolosやBlimp-1が明らかとなった。そこでこれら因子をKDしたところBcl-2発現の低下が見られた。 以上の結果から、骨髄腫細胞において、1) IkarosはFosと協調してIRF4やSLAMF7など、2)AiolosはBlimp-1と協調してBcl-2など、骨髄腫細胞の増殖や生存維持に必須の分子の転写活性化に働いている可能性が示唆される。これら研究結果は、lenalidomide耐性を克服しうる併用療法の開発を進めていくうえで貴重な情報と考えられる。今後、この研究を発展させ、lenalidomide耐性解除の治療法開発を進めていきたい。
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