主に腫瘍随伴性線維芽細胞(cancer-associated fibroblasts: CAF)から構成される腫瘍微小環境が乳癌細胞の分化にどのように寄与しているのか検証を行った。乳癌はエストロゲン受容体・プロゲステロン受容体・チロシンキナーゼHER2の発現の有無によって分類される。その中でも難治性で扁平上皮様分化を呈する化生癌(metaplastic carcinoma)とその微小環境との相互作用に関してはほとんど報告が無いのが実情である。注目すべきことに、転移能の高いトリプルネガティブ乳癌(triple negative breast cancer: TNBC)では転移能の低い乳癌と比較して、ケラチノサイトで特異的に発現している遺伝子群の転写レベルが高かった。また、申請者が着目しているフォークヘッド転写因子FOXQ1の発現が高転移能の乳癌で約5倍高いことが証明された。TNBCにおいてFOXQ1を過剰発現させると扁平上皮マーカーの発現が顕著に増加した。逆にFOXQ1の発現をsi-RNAで抑制すると、扁平上皮マーカーの発現が有意に低下した。腫瘍微小環境には様々なサイトカイン・ケモカイン・成長因子が存在しているが、その中でもCAFから分泌されるTGF-βおよびstromal cell-derived factor 1(SDF-1)が代表的である。そこでTNBC細胞をリコンビナントのTGF-βおよびSDF-1で処理してFOXQ1の発現を定量RT-PCRで検証したところ、濃度依存的かつ時間依存的に増強していた。興味深いことに、TGF-βとSDF-1はFOXQ1の発現増加において相乗的に作用していることが明らかとなった。以上の所見から、CAFのパラクライン的作用がTNBCの一種である化生癌の扁平上皮様分化を促進している可能性が強く示唆された。
|