研究課題/領域番号 |
19K23900
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研究機関 | 藤田医科大学 |
研究代表者 |
渡辺 崇 藤田医科大学, 医学部, 講師 (10402562)
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研究期間 (年度) |
2019-08-30 – 2021-03-31
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キーワード | がん幹細胞 / 乳がん / 転移 / S100タンパク質 |
研究実績の概要 |
本年度、研究計画に基づき がん幹細胞の性状がS100の過剰発現やS100の発現抑制により制御されるかどうか、患者由来がん細胞や乳がん由来細胞株MDA-MB-231を用いて検討した。その結果、患者由来がん細胞(patient derived xenograft)の2種類の細胞でS100を過剰発現すると、腫瘍形成能の指標とされるオルガノイド形成能が顕著に増加することを見出した。 MDA-MB-231細胞を基に、恒常的にS100を過剰発現する細胞、S100に対するshRNAを発現する細胞株を作成した。MDA-MB-231細胞でS100の発現を抑制するとスフェロイドの形成能が減弱する一方で、S100の過剰発現はスフェロイド形成能に大きな影響を与えないことも見出した。さらに、S100の発現抑制はマトリックスメタロプロテアーゼの活性を減弱させ、その結果3次元の浸潤が阻害されることが明らかになった。しかしながら、S100の発現抑制は、MDA-MB-231細胞の細胞周期の進行、アポトーシスレベル、細胞増殖、2次元での細胞遊走に顕著な影響を与えないことも見出した。 S100の細胞内ターゲットやそのパスウェイを探索する目的で、S100タンパク質を用いたアフィニティーカラムクロマトグラフィーを行い、新規結合タンパク質の同定を試みた。その結果、S100に結合するタンパク質は回収率が極めて低く微量であった。好感度質量分析計でタンパク質の同定を試みたが、検出感度以下で同定には至らなかった。 現在、免疫不全マウスを用いた移植実験でS100の過剰発現や発現抑制が、原発巣や転移巣での腫瘍形成に与える影響を検討している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
立案した研究計画に従って実験を進めており、概ね順調に進展していると言える。S100の新規細胞内ターゲットは同定できなかったが、S100の過剰発現がオルガノイド形成能を促進させること、その発現抑制がマトリックスメタロプロテアーゼの活性や3次元での浸潤を阻害することを見出した。これらの結果はS100が特定のがん幹細胞性を制御することを示しており、また本研究が順調に進展していることの理由となる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き研究計画に従って研究を推進する。異種移植マウスを使った、転移・潜伏モデルにおいてS100の過剰発現、発現抑制や発現誘導が肝臓への転移、転移後の潜伏に与える影響を検討する。また、実験の進捗状況に応じて肝細胞と乳がん幹細胞の共培養系を確立し、がん幹細胞の肝臓への転移と潜在をin vitroで構築する。さらに、乳がん患者の組織を用いてS100の発現量を解析し、予後との関係を検討する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初がん細胞と肝細胞の共培養の実験を当該年度に予定していたが、他の実験の都合で行わなかった。そのため、当該助成金が生じた。翌年度に当該助成金を使用し、その実験を行う予定である。
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