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2020 年度 実施状況報告書

KRAS変異固形癌に対するSHP2阻害剤の臨床応用への基盤解明

研究課題

研究課題/領域番号 19K23909
研究機関東京医科歯科大学

研究代表者

加納 嘉人  東京医科歯科大学, 大学院医歯学総合研究科, 特任助教 (10633125)

研究期間 (年度) 2019-08-30 – 2022-03-31
キーワードKRAS / SHP2阻害 / チロシンリン酸化 / リキッドバイオプシー / クリニカルシークエンス
研究実績の概要

KRAS遺伝子はヒトがんの中で最も高頻度に変異しており難治癌にその変異が多くみられることから最も重要ながん遺伝子と考えられているにも関わらず、「Undruggable(治療不可能)」な因子とみなされている。本研究ではKRASシグナルに関わる脱リン酸化酵素であるSHP2との直接的なメカニズムの探索またはSHP2を介する様々な変異型KRASへの治療標的を探ることが目的である。
我々はKRAS野生型、G12変異を持つ膵癌細胞株ではSHP2阻害剤が有効であることを示す一方、その5%程度で認められるQ61H変異を持つ細胞株ではSHP2阻害剤に対し治療抵抗性を示すことを明らかとした。さらにはHEK293細胞へKRAS Q61Hを過剰発現させた安定細胞株ではKRAS野生型あるいはG12D/V変異の過剰発現安定株と比較しやはりSHP2阻害剤に対する感受性低下を示した。これらのことから、SHP2阻害がKRASの変異型により感受性が異なることを示され、さらにはKRASがSHP2から受ける制御のメカニズムも異なることが示唆された。以上の基礎的な観点に加え、固形癌におけるクリニカルシークエンスを組み合わせることでKRASをはじめとしたRAS変異並びにSHP2をコードするPTPN11変異に関して解析を行っている。
SHP2阻害剤は現在PhaseI試験が世界各国で行われており、KRAS変異を持つ固形癌に対し有効性が期待されている。今回我々が示した結果はKRAS活性化変異の中でもSHP2阻害剤に対する感受性、治療抵抗性を示す変異型が存在することを示唆するものであり、今後のプレシジョンメディシンにとって有効性を予測する非常に重要な結果であると言える。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

咋年度は、KRAS-SHP2制御機構解析のためヒトリコンビナントKRAS、SHP2、Srcを用いることでin vitroにおけるKRASリン酸化の動向、さらにはMEF細胞を用い内在性蛋白においてKRAS/SHP2の直接制御を示すことが目標であった。
我々はすでにリコンビナントKRAS野生型、G12D/V、Q61H蛋白を作成し実験系に用いることを可能としている。さらにはSrc、SHP2蛋白も同様に利用可能であり、Western blottingによるinteractionの同定ならびに各変異型に対するSrcキナーゼによりチロシンリン酸化の挙動が解析可能であった。加えて、これらのリン酸化蛋白を用いてNMRを用いて解析が可能でありKRAS Q61Hは他の活性化変異にはみられないGEF/GAPなどのGTPサイクルに関わる因子との制御機構が明らかとなった。
興味深いことにKRAS野生型ならびにG12変異型ではSrcキナーゼによりチロシンリン酸化を受けることでエフェクターであるRAFとの結合能は低下するのに対し、KRAS Q61H変異ではRAFとの結合能には大きな影響を与えなかった。この結果はSHP2阻害剤の感受性を考える上でも重要な結果であり、SHP2の脱リン酸化酵素としての機能がKRASを制御しさらには下流シグナルへ多大な影響を及ぼしていることを示している。
さらにKRAS変異型によるSHP2阻害剤の有効性の違いは膵癌細胞株だけではなく、膵癌PDXモデルや肺癌細胞下部においても同様であり、KRAS変異がドライバー遺伝子として働いている癌に対し臓器横断的に認められる現象であることが示された。加えてspheroids培養や腫瘍オルガノイド培養を用いることでより生体内での環境に近い状態で解析を行い、SHP2阻害剤の有効性やQ61H変異型に対する感受性を検討した。

今後の研究の推進方策

実臨床において次世代シークエンス技術を用いたがんゲノム医療、がん遺伝子パネル検査が実用化されており、本学がんゲノム診療科では現在まで血液検体を用いたリキッドバイオプシーによる網羅的遺伝子解析の症例が150症例を越えており、多くの固形癌においてKRAS変異の臨床的情報が得られやすくなっている。さらにクリニカルシークエンスデータを追加し、日本人患者におけるKRASの変異率や変異型並びにSHP2をコードするPTPN11変異の解析を行うことで、上記のpreclinicalの結果を合わせSHP2阻害剤の有効性のバイオマーカーを確立すること、プレシジョンメディシンへの応用を目指す。
今後KRASをはじめとするRAS変異型の固形がんに対する標的治療が確立されることで、現在のがん治療に対するインパクトは非常に大きい。我々が提唱してきたRASリン酸化モデルをKRASにも応用しSHP2からの直接の制御メカニズムを示すという点は、非常に独創的でKRASシグナルの理解においてパラダイムシフトを提示するものである。特筆すべきはこれらのメカニズムの解明は現在のがんゲノム医療を取り巻く問題点に直結しており、つまりKRAS変異を持つ固形癌の治療戦略を一変する可能性があるということである。このような臨床的ニーズからもその応用に向けて、各KRAS変異型によりSHP2阻害剤の感受性を研究室レベルで同定することは必要不可欠であり、これらの結果はRAS研究だけでなくがん医療全体にまで波及効果をもたらすと期待される。

次年度使用額が生じた理由

・次年度使用額が生じた理由:試薬や外注検査が計画当初より廉価で購入可能であった為。
・使用計画:検討する数・種類を拡大して解析を行う為、試薬や外注検査を増加する予定である。

  • 研究成果

    (11件)

すべて 2021 2020 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 2件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 3件) 学会発表 (5件)

  • [国際共同研究] University of Toronto/University Health Network(カナダ)

    • 国名
      カナダ
    • 外国機関名
      University of Toronto/University Health Network
  • [雑誌論文] ASO Author Reflections: Impact of Liquid Biopsy Using Plasma Cell-Free DNA in Solid Tumors in Japan2021

    • 著者名/発表者名
      Matsudera Shotaro、Kano Yoshihito、Ikeda Sadakatsu
    • 雑誌名

      Annals of Surgical Oncology

      巻: 28 ページ: 8506~8507

    • DOI

      10.1245/s10434-021-09858-3

    • 査読あり
  • [雑誌論文] A Pilot Study Analyzing the Clinical Utility of Comprehensive Genomic Profiling Using Plasma Cell-Free DNA for Solid Tumor Patients in Japan (PROFILE Study)2021

    • 著者名/発表者名
      Matsudera Shotaro、Kano Yoshihito et. al
    • 雑誌名

      Annals of Surgical Oncology

      巻: 28 ページ: 8497~8505

    • DOI

      10.1245/s10434-021-09856-5

    • 査読あり
  • [雑誌論文] PD-1 blockade delays tumor growth by inhibiting an intrinsic SHP2/Ras/MAPK signalling in thyroid cancer cells2021

    • 著者名/発表者名
      Liotti Federica、Kumar Narender、Prevete Nella、Marotta Maria、Sorriento Daniela、Ieran? Caterina、Ronchi Andrea、Marino Federica Zito、Moretti Sonia、Colella Renato、Puxeddu Efiso、Paladino Simona、Kano Yoshihito、Ohh Michael、Scala Stefania、Melillo Rosa Marina
    • 雑誌名

      Journal of Experimental & Clinical Cancer Research

      巻: 40 ページ: 22

    • DOI

      10.1186/s13046-020-01818-1

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] Intestinal phenotype is maintained by Atoh1 in the cancer region of intraductal papillary mucinous neoplasm2020

    • 著者名/発表者名
      Katsukura Nobuhiro、Watanabe Sho、Shirasaki Tomoaki、Hibiya Shuji、Kano Yoshihito、Akahoshi Keiichi、Tanabe Minoru、Kirimura Susumu、Akashi Takumi、Kitagawa Masanobu、Okamoto Ryuichi、Watanabe Mamoru、Tsuchiya Kiichiro
    • 雑誌名

      Cancer Science

      巻: 112 ページ: 932~944

    • DOI

      10.1111/cas.14755

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [雑誌論文] NRAS Status Determines Sensitivity to SHP2 Inhibitor Combination Therapies Targeting the RAS-MAPK Pathway in Neuroblastoma2020

    • 著者名/発表者名
      Valencia-Sama Ivette、Ladumor Yagnesh、Kee Lynn、Adderley Teresa、Christopher Gabriella、Robinson Claire M.、Kano Yoshihito、Ohh Michael、Irwin Meredith S.
    • 雑誌名

      Cancer Research

      巻: 80 ページ: 3413~3423

    • DOI

      10.1158/0008-5472.CAN-19-3822

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著
  • [学会発表] KRAS Q61H mutation evades the regulation of tyrosyl phosphorylation and renders cancer cells resistant to SHP2 inhibitor.2020

    • 著者名/発表者名
      YOSHIHITO KANO, Teklab Gebregiworgis, Christopher Marshall, Mitsuhiko Ikura, Satoshi Miyake, Michael Ohh.
    • 学会等名
      第18回日本臨床腫瘍学会学術集会
  • [学会発表] Detection of RAS mutation in solid cancers using NGS-based genome profiling tests.2020

    • 著者名/発表者名
      加納嘉人、野地理夏、山下大和、工藤亮、大西威一郎、谷本幸介、宮冬樹、中川剛士、石川敏昭、植竹宏之、絹笠祐介、田邉稔、朝蔭孝宏、原田浩之、岡本隆一、三宅智、池田貞勝
    • 学会等名
      第18回日本臨床腫瘍学会学術集会
  • [学会発表] Clinical utility of tumor-profiling multiplex gene panel testing in advanced head and neck cancer at TMDU.2020

    • 著者名/発表者名
      加納 嘉人,野地 理夏, 山下 大和, 工藤 亮, 田崎 彰久, 大野 十央, 有泉 陽介, 平井 秀明, 富岡 寛文, 島本 裕彰, 道 泰之, 三浦 雅彦, 吉村 亮一, 朝蔭 孝宏, 原田 浩之, 岡本 隆一, 三宅 智, 池田 貞勝
    • 学会等名
      第18回日本臨床腫瘍学会学術集会
  • [学会発表] 進行肝細胞癌に対するがんゲノム診療における網羅的遺伝子パネル検査の有用性とバイオマーカー探索.2020

    • 著者名/発表者名
      加納嘉人、北畑富貴子、村川美也子、柿沼晴、東正新、中川美奈、 井津井康浩、新田沙由梨、三好正人、青柳康子、松寺翔太郎、遠山皓基、 田邉稔、三宅智、池田貞勝、朝比奈靖浩.
    • 学会等名
      第56回日本肝癌研究会
  • [学会発表] Evasion of KRASQ61H regulation by tyrosine phosphorylation renders cancer cells resistant to SHP2 inhibitor.2020

    • 著者名/発表者名
      Yoshihito Kano, Teklab Gebregiworgis, Christopher B. Marshall, Mitsuhiko Ikura, Michael Ohh.
    • 学会等名
      第79回日本癌学会学術総会

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公開日: 2021-12-27  

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