本研究では、転移性脳腫瘍において重要な役割を果たすと考えられているアストロサイトの活性化がどのようなメカニズムで引き起こされているのかを明らかに する。特に、がん細胞存在下におけるアストロサイトと周囲のグリア細胞の相互作用に着目して解析を行うことにより、脳微小環境における細胞間相互作用を ターゲットにした転移性脳腫瘍の治療法の開発を目指す。 2020年度は、2019年度に開発したグリア細胞の新規培養法(MGS法)を用いて様々な解析を行った。その結果、MGS法でがん細胞を共培養すると、MGS法におけるがん細胞の増殖能力がマウス脳内での増殖能力と非常に強く相関していること、並びにMGS法でがん細胞を培養し続けることにより、がん細胞がin vivoにおいても脳転移指向性を獲得することが明らかになった。このことは、MGS法はグリア細胞の性質を長期間維持するだけではなく、脳転移微小環境を模倣していることを示している。 さらに、このMGS法を用いて転移性脳腫瘍におけるアストロサイトとミクログリアの相互作用を解析したところ、ある特定の条件においては、本来ミクログリアの味方であるはずのアストロサイトがミクログリアの活性化を抑制してしまうことで、ミクログリアのがん抑制性が発揮されなくなってしまうことを明らかにした。現在、このアストロサイトとミクログリア間のグリアネットワークがどのようにして破綻してしまうのか、その分子メカニズムを薬剤スクリーニングやsingle cell RNA-seqにより解析している。
|