研究課題
セリンプロテアーゼ遺伝子のうちPRTN3遺伝子の高発現および異常転写産物の意義を白血病細胞株、AML患者検体、マウス骨髄細胞において検討した。27例のAML患者白血病細胞検体にてPRTN3mRNAの発現定量を行い、CBF-AML症例において高発現の症例を認めた。22種の白血病細胞株においてPRTN3のmRNA、蛋白発現を検討し、高発現を認めたRUNX1-RUNX1T1-AML細胞株であるKasumi-1、SKNO-1を用い、同遺伝子のshRNAを導入しこの分子をノックダウンすると、72時間でG1停止を認め、有意にアポトーシス細胞が増加し、14日以内に死滅することを見出した。PRTN3のノックダウンにより抑制される経路を詳細に同定すべく、同ノックダウン細胞より抽出したRNAを用いRNAシークエンスを実施し、現在解析中である。C57/BL6Jマウス骨髄細胞にMLL-AF9融合遺伝子を導入したマウス白血病細胞モデルを作成し、shRNAを用いてPRTN3ノックダウンによる生存への影響をin vitroで検証した。白血病細胞株同様、PRTN3を高発現していたこの白血病モデルにおいてもノックダウン細胞はコントロールより有意に早く死滅することが確認された。同ノックダウン細胞をマウスにそれぞれ再移植し、白血病化への影響をin vivoで検証する予定である。マウス骨髄細胞にCBF-AML患者より同定されたPRTN3異常転写産物、野生型PRTN3をMLL-AF9融合遺伝子と共発現させ、白血病化への影響をin vivoで検証した。PRTN3異常転写産物導入群は正常型導入群よりも早期に死亡する傾向はみられたが統計的な有意差は認めず、異常転写産物の白血病化への影響は見いだせなかった。
2: おおむね順調に進展している
本年度予定したAML臨床検体でのセリンプロテアーゼ遺伝子のmRNA発現定量については実施できており、RUNX1-RUNXT1-AML, CBFβ-MYH11-AMLにおいて高発現例を認めたことから、CBF-AMLの病態との関与が示唆された。計画通り正常・異常セリンプロテアーゼ転写産物とCBF-AMLの病態への関与についてin vitroでの機能解析を行っており、正常PRTN3高発現細胞株での同分子のノックダウンによる生存抑制効果が確認されており、またこれらの細胞は細胞周期の停止をきたしていたことから、PRTN3分子が白血病細胞の生存に寄与する機序の一つとして細胞周期の維持・調節がかかわる可能性が示唆された。現在解析中であるノックダウン細胞のトランスクリプトーム解析により機序を明らかにすることを予定している。次年度に計画していたPRTN3遺伝子とCBF-AML発症の関わりについてin vivoで検証するマウスモデルを樹立しており、準備を進めることができている。以上より、計画はおおむね順調に進展していると判断した。
前年度に実施したPRTN3ノックダウン細胞のトランスクリプトーム解析結果をもとに、PRTN3遺伝子と白血病細胞の生存維持にかかわる機序を明らかにする。前年度in vitroで証明されたPRTN3ノックダウンによる細胞株の生存抑制効果について、MLL-AF9導入マウス白血病モデルを用い、in vivoにおいてPRTN3ノックダウンによる生存解析を行う。セリンプロテアーゼがAMLの治療標的となる可能性について、患者白血病細胞に正常/変異型セリンプロテアーゼ遺伝子、もしくは同遺伝子に対するshRNAを導入したのち、免疫不全マウスに異種移植を行った異種移植モデルを作成し、白血病治療薬、既存のセリンプロテアーゼ阻害剤を含む分子標的治療薬を投与し、変異型セリンプロテアーゼ遺伝子発現と治療感受性の影響を検証する予定である。
セリンプロテアーゼ遺伝子ノックダウン細胞のトランスクリプトーム解析が前年度内に終了しなかったため、その結果に基づく機能解析の費用が次年度に繰り越されることとなった。次年度においては、セリンプロテアーゼ遺伝子導入マウスモデルでの薬剤感受性の検証等と並行して、このトランスクリプトーム解析結果から想定される、セリンプロテアーゼ遺伝子発現と白血病の維持・発症に関わる経路の機能解析を実施する。
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Blood Advances
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