細胞傷害性T細胞の細胞傷害活性には不均一性が存在し、標的細胞との接触は必ずしも殺傷に繋がらない。本研究では細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の活性動態に着目した。標的細胞と接触した際のERK活性変化の制御機構を解明し、傷害活性不均一性の規定機構の解明を試みた。 T細胞のERK活性の動的変化を定量評価する目的に、蛍光共鳴エネルギー移動の原理を応用した情報伝達分子活性モニター(FRETバイオセンサー)をT細胞特異的に発現するマウスを作出した。マウス腫瘍細胞株を皮下担癌し腫瘍微小環境内を運動するT細胞ERK活性を可視化した。その結果、T細胞は腫瘍微小環境内で運動性に乏しいこと、ERK活性の動的な変化に乏しいこと、が明らかとなった。生体イメージング下ではがん細胞の死滅(カルシウムセンサーで評価)もほぼ観察されなかった。これらより、培養条件下と異なり生体内ではがん細胞殺傷時のERK活性動態を定量評価することは極めて困難との結論に至った。 一方、上記生体イメージングの過程で、BRAF V600E変異を有するメラノーマ細胞においてカルシウムシグナルが活発に活性化していることが明らかになった。このカルシウムシグナルはシクロオキシゲナーゼ(COX)を欠損した細胞株ではほとんど観察されなかった。更にCOXの有無によるカルシウムシグナル活性状態の差異は生体でのみ観察された。注目すべきことに、三量体Gタンパク質Gqファミリー特異的阻害剤投与によりこのカルシウムシグナルは速やかに抑制された。これらより、がん細胞由来のプロスタノイドを受容したがん微小環境内の宿主細胞が、Gqリガンドを放出しがん細胞にGqシグナルをもたらすという細胞間相互作用の存在が示唆された。 今後は、この細胞間相互作用の腫瘍増殖における意義解明およびこの相互作用を標的とする新規治療法開発を目指して研究を進展させたい。
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