ROS1融合遺伝子陽性の非小細胞肺癌に対する分子標的薬はクリゾチニブに引き続き、2019年度にエヌトレクチニブが承認されたが、以降の薬事承認はなく、未だ新しい治療戦略が必要とされる疾患である。本研究の目的の一つは、ROS1融合遺伝子陽性の患者(以下、「ROS1肺癌患者」)由来の組織、細胞株を用いて、クリゾチニブ対する耐性機序を探索し、新規治療戦略を構築することである。2020年度は以下の手順で研究を進めた。【方法】ROS1肺癌患者のクリゾチニブ投与前後の癌性胸水から、それぞれ細胞株を樹立した(クリゾチニブ投与前細胞株:ABC-26、投与後細胞株(耐性株):ABC-20)。それぞれの細胞株を用い、MTT assay、Western Blotting、RT-PCR等を行った。【結果】クリゾチニブに対する耐性株であるABC-20は、RT-PCRではROS1融合遺伝子の二次変異として知られているROS1-G2032Rは検出されなかった。ABC-26、ABC-20に対してROS1阻害剤を有するブリガチニブ及びロルラチニブを用いてMTT assayを行ったところ、ABC-26に対してはいずれの阻害剤も効果的であった(IC50; ブリガチニブ0.052μM、ロルラチニブ0.0002μM)が、ABC-20に対しては特にロルラチニブが有効であった(IC50; ブリガチニブ0.217μM、ロルラチニブ0.008μM)。Xenograftモデルでも、ロルラチニブはABC-26及びABC-20に強い腫瘍縮小効果が認められた。【まとめ】in vitro、in vivoともにABC-20のクリゾチニブ耐性を確認でき、ロルラチニブはABC-20について強い腫瘍縮小効果を認めたことから、ロルラチニブはクリゾチニブ耐性後の治療戦略の一助となる可能性が示唆された。
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