本研究の目的は、非自己T細胞を用いたT細胞療法の確立であり“宿主組織傷害”と“輸注細胞の拒絶”を抑制した細胞の開発である。すなわち、輸注細胞である非自己T細胞の内因性TCRの発現を抑制することで宿主組織傷害を抑制し、さらに輸注細胞のMHC発現を抑制することで拒絶を抑制することを目的とする。 本研究ではがん精巣抗原であるNY-ESO-1抗原をターゲットとし、ヒトリンパ球にNY-ESO-1特異的TCRを遺伝子導入した。内因性TCRの発現を抑制するsiRNAを搭載させたレトロウイルスベクターを用いることで、同時に内因性TCRの発現を抑制させることが可能であった。また、MHC classⅠ分子の発現の抑制はβ2ミクログロブリンをターゲットとし、レンチウイルスベクターを用いたCRISPR/Cas9システムにより行った。これら2種類のウイルスベクターを導入することで、内因性TCRおよびMHC発現をともに抑制し、かつNY-ESO-1特異的TCRを発現したリンパ球を作製することができた。2種類のウイルスベクターを共に導入できた細胞の割合は低く、ビーズ分離法によるセレクションを行うことで、高純度の遺伝子導入細胞を作製した。この遺伝子導入細胞をin vitroで評価し、アロ抗原に対する反応性の低下、さらに抗原性の低下を認めた。またサイトカイン産生にて抗腫瘍効果を評価し、遺伝子導入細胞での効果的な抗腫瘍効果を示した。 この遺伝子導入細胞の抗腫瘍効果をマウスモデルを用いて検討した。免疫不全マウスにNY-ESO-1発現ヒト癌細胞株であるNW-MEL-38を皮下投与し、同時に遺伝子導入細胞を輸注した。輸注後、腫瘍体積を測定すると遺伝子導入細胞を輸注したマウスでは腫瘍増大を抑制することができた。これらの研究成果の論文発表した。
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